隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 息を吸うと、夏の終りの匂いがした。

 湿った青々しい草木の匂いの中に、冷たく澄んだ空気が交わり合って、思わず目を閉じてしまいたくなる心地よさが、そこにはあった。

 バッティングセンターの帰り道、俺と朝日は肩を並べて無言で歩いていた。

 ぐすっと、鼻を啜りながら隣を歩く朝日が、唐突に口を開いた。

 「なあ」
 「んー?」
 「次はいつ戻ってくるんや?」
 「あ〜、どうやろ。冬休み?」
 「ほんなら、次はちゃんと野球しようや。メンバーは俺が集めるし。鈍った体ビシバシしごいたるで」
 「手加減しろや。こっちはブランクあんねんぞ」

 隣を睨みつけると、朝日は機嫌良く笑い声を上げた。

 「ええやん。予行演習や」
 「なんのや……、痛ッ!」
 「とぼけんなや!」

 容赦なく叩かれた背中をさすりながら、顔を上げると、朝日が口角を上げて目を細めた。

 「戸塚たちから聞いたで!」
 「何を?」
 「──4月には、こっちに戻ってくんねやろ?」

 その瞬間、俺の時間は止まったかのように感じた。
 ずっと、目を逸らしていた事実を突きつけられた気分だった。

 「侑?」

 朝日の声で我に帰る。
 俺は、力無く笑って頷いた。

 「……うん。そうやったな」