そこには、いつも以上に浮かない顔つきをする私が写っていました。鏡越しですら、行きたくない、と顔に書いているのがありありとわかります。
時刻は朝の7時半。
二回目の日直当番が回ってくる日です。
トイレから出て、重い足取りで教室へ向かいます。
いざ、教室のドアの前に立つと、らしくもなく開くのを躊躇ってしまいます。
私は深呼吸をした後、意を決して、教室のドアを開けました。
……どうやら、誰もいないようです。
見まわした教室のどこにも彼の影が見えず、私はほっと肩を撫で下ろしました。
流石の彼もあんな事があった後に、私と顔を突き合わせ辛かったのでしょう。
結果的に仕事を押し付けられるのは癪ですが、彼と気まずい雰囲気の中、雑務をこなすよりは断然マシです。
肩にかけた鞄を机に下ろし、花瓶の水の入れ替えをしようと立ち上がった時です。
──がたん、と何かが倒れる音がしました。
すぐ後方、掃除用具入れの中からです。中にある箒でも倒れたのでしょうか。無性に中が気になって、私は用具入れの取手に手を伸ばします。
扉を開けるとそこは、サバンナでした。
獰猛な肉食獣の鋭い眼光と、逆立つ茶色の毛並み。
剥き出しの犬歯が朝の爽やかな日差しを浴びてきらりと光ります。
草原の中を堂々とした出で立ちで寛ぐ肉食獣の貫禄は欠片程もなく、幅50センチほどの窮屈な用具入れの中にギチギチに押し込まれるさまはさながら、満員電車に揉まれるサラリーマンでした。
一旦扉を閉じました。
なんだろう今の。……幻覚?
停止した思考では理解が追いつかず、私は、考えることを諦め、もう一度扉を開けました。
「……」
「……」
先ほどと全く同じ体勢で、“それ“は立っていました。
今にも襲いかかってきそうなほど質感のある肉食獣と5秒ほど向かい合い、私はようやく正気を取り戻します。
「……坂本くん」
「……」
「坂本くん」
「……」
返答がありません。
このままシラを切るつもりでしょうか。
沸々と怒りの感情が湧き上がってきました。
このまま逃げ切るつもりかもしれませんが、そうは問屋が卸しません。



