隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 徒歩15分のスーパーで、しょうゆと、残ったお釣りでキャンディーアイスを買った。

 買い物袋をぶらぶらさせながら、アイスをちまちま齧っていると、ポケットが震えた。

 スマホを取り出して、ロック画面を見ると、倉橋さんからメッセージが入っている。内容は、“いま、通話できますか”、だった。

 俺は慌てて、大丈夫! と返すと、しばらくして電話がかかってくる。

 『……こんばんは』

 電話越しの倉橋さんの声は、いつもより少し高く聞こえる。耳に彼女の吐息がダイレクトにかかって、途端に心臓が跳ねる。

 「……う、うん。どうした?」
 『今日、図書館に寄った帰りに、早川さん達に会ったんです。坂本くんが大阪に帰省してるって話になって……、お土産は551がいいそうです』
 「あいつら……分かった。買うてくな」
 『……はい。お願いします』
 「……」
 『……』
 「えっ、それだけ?」
 『はい』
 「そ、そっか」
 『……、駄目でしたか?』
 「全然! ただ、電話やなくても……」

 しばらく無言が続く。
 倉橋さんは少しだけいじけた声で言った。

 『……急に声が聞きたくなったら、電話してもいいのは、坂本くんだけの特権ですか?』
 「へ?」

 食べかけていたアイスが地面に落ちた。

 起動したてのパソコンみたいに、頭の中を倉橋さんの言葉が巡る。

 胸をギュンッ! と、鷲掴みにされた気分だ。
 思わず口を押さえて、叫び出したい衝動をグッと堪える。

 もう、もう、もう!!!!!
 なんなんそれ〜〜〜〜!!!????
 なんでそんな可愛いこと言うん!!!????
 俺のことどうしたいん、この子は!!!???

 『坂本くん?』

 倉橋さんの声でハッと我に帰る。
 俺は仕切り直しで、一つ咳払いをした。

 「……いつでも掛けてええよ。倉橋さんの声聞けると、元気出るし」

 再びの沈黙。
 わずかなため息が聞こえたかと思うと、車のエンジン音にかき消されそうなほど小さな声が聞こえた。

 『…………、ばか』  

 プツ、と唐突に電話が切れた。
 しばらくスマホを眺めて呆然としていると、一件のメッセージが入った。

 ”8/31 10時、駅前で”

 そっけない文章なのに、ずっと見ていたくなる。こっちに戻って来て落ち込んでいた心が、スッと軽くなる。鼻歌でも歌い出したくなる。

 ポッケにスマホを入れて、軽い足取りで一歩踏み出した時だ。

 「──あれ、南?」