「倉橋さんは……、ただの幼馴染と、こーんな顔近づけて、手ぇ握りながら喋るん?」
「な、」
何でそれを知ってるんですか?
言葉にするより先に、思わず彼の胸を押し返して、後退りをします。
けれども、離れた分だけ、彼は距離を詰めてきます。
「え、と」
鼓動が早まるのが、分かります。
言葉が上擦って、思考が纏まりません。
ど、どうしたんでしょうか、私。坂本くんの顔が、まともに見れません。
私の煮え切らない態度を彼がどうとらえたのかは分かりませんが、ふ、と皮肉げな笑いを落として、ようやく私の左手は解放されます。
すぐさま距離を取りますが、上がった心拍数が戻る気配がありません。
「倉橋さんの嘘つき。……笑うんは、俺の前だけやって、言ったのに」
「……」
浮気者にプラスして嘘つきが、追加されてしまいました。散々な言われ様です。
さっきからずっと、坂本くんのペースに飲まれています。飼い犬に手を噛まれた気分です。
私は熱くなった頬に手の甲を当てて、誤魔化すように咳払いをします。
「……善処する、と言ったんです」
「……あっそ。都合が悪くなると、そうやって揚げ足取るんや」
「なっ!」
「どーせ、倉橋さんには一生分からんよ。倉橋さんの言葉一つで、一喜一憂させられる奴の気持ちなんか。期待させるだけさして、あとは放置やもんね。……ほんま、悪い女」
ちらりと私を見る不遜な視線に、じわじわと募っていた怒りの矛先が一気に彼へ向きます。
一方的に詰られるのは性に合いません。
「ああ、そうですか。それはどうもすいませんでした。まあ、でも、私の行動をコソコソ盗み見るような男にそこまで言われる筋合いはないですけど」
「……」
「どうも坂本くんは、私と仲直りする気がないようで。無理もないですね。私、浮気者で、嘘つきで、悪い女なので」
「……」
坂本くんは何も言い返しません。
私は無言で立ち上がります。
彼がこちらを見上げることはありません。
それが無性の腹立たしくて、らしくもなく語気を強めます。
「私の顔なんてもう見たくないですしょうし、さっさと退散します。当分顔を合わせることはないでしょう。──じゃあ、さようなら」
裾を翻し、ぼんやりと見える提灯の光へ向かって足を進めた時──、私の足は止まりました。否、止められました。



