隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 蓮水神社の名の由来となった場所──蓮水湖には、夜空を薄紙で透かしたような薄藍色の蓮の花が、一面に咲き誇ります。

 頬を撫でる優しい風が、蓮の葉を揺らすほど、水面に映った月が陽炎のように揺蕩います。

 先ほど迄の喧騒が遠い昔の出来事だったのかと思うほど、湖の周りは静寂に包まれていました。

 
 現状、気まずいです。非常に。
 会話が一切ありません。

 普段おしゃべりな坂本くんが、先ほどから口を閉ざしたままです。 
 ついに耐え切れなくなって、私の方から話しかけてみました。

 「……あの、坂本くん」
 「……なに?」
 「……その……すいませんでした」

 たっぷりと間を置いて、

 「ん〜、なにが?」

 と、平坦な声が返ってきます。

 坂本くんの視線は、湖の方を向いたままです。
 いつもなら、私の方をを見て話を聞いてくれるのに。

 「いや、その色々と……」
 「色々って何よ〜? 俺、別になん〜も怒ってへんよ」
 「……」

 怒っています。確実に怒ってます。
 今までかつてないほど、怒っています。

 柔らかい物言いではありますが、目が合わないのがいい証拠です。

 ……困りました。
 こういう時、何で弁明すればいいのか、全くわかりません。人との関わりを避け続けてきた弊害です。

 何も言葉が出てこなくて、膝を抱えて丸くなります。
 痺れを切らしたらしい坂本くんが、わざとらしくこほん、と咳払いをしました。

 「例えば、祭りに誘ったら死んでも行かんって、ノータイムで断ってきたこと?」
 「……(めちゃくちゃ根に持ってた……)」
 「それとも、断った理由はなんも言わんと、ずーっと俺のこと放置しとったこと?」
 「……(構ってちゃんだ……)」
 「ていうか、俺の方こそごめんなぁ。“死ぬほど”見られなく無かったはずやのに、結局神楽、見てしもうて」
 「……」

 坂本くんらしからぬ、ちくちく言葉のラッシュです。
 突き刺さった言葉の槍で、私のメンタルはすでに満身創痍です。