「次、こっちも写真お願いしまーす!」
「巫女さーん! 視線お願いします!」
「すいません、ツーショいいですか〜?」
最悪の事態です。
私はただ、たこ焼きの匂いに釣られただけの一般市民なのに。
私の周りをスマホ片手に取り囲む人だかりを前に、なすすべなく途方に暮れます。
たこ焼きひとパック手に入れるだけで、残りの気力を全て使い果たしそうです。
なるほど、至くんがうろちょろするなと釘を刺した意味をようやく理解しました。
「……通してください」
「お姉さんこっち向いてください」
「あの、だから通して……」
「すいません、今度はこっちも」
「……」
「巫女さん笑って〜! はい、チーズ!」
「……、だからッ、」
「あ〜〜〜!!! 花火や!!」
突如、上がった歓声ともに人だかりの中の1人が真後ろを指差さしました。
群衆が一斉に後ろを振り返ります。
その一瞬、人だかりの隙間から伸びた手に、掴まれました。そのまま、囲まれた輪の中を飛び出します。
「走って!」
見覚えのある後ろ姿が、私の手を引いて駆け出します。
祭りで賑わう人の波をかき分けて、提灯で作られた光の道を彼の手に引かれるまま、大きな背中を追いかけ続けます。
無意識に彼の名前が、口から漏れます。
彼は返事の代わりに繋いだ手にぎゅっと、力を込めました。
本殿まで続く参道を外れ、草木生い茂る小道を抜けると、視界の開けた場所に辿り着きました。
「……、ここまできたら流石に大丈夫やろ」
顎先を伝う汗を拭い、肩を撫で下ろす彼の横顔が、なんだか知らない男の人のように思えて、心臓がやけにうるさくなります。
「坂本くん……手……痛い、です」
「あ、……ごめん」
坂本くんは、繋いでいた手をぱっと離しました。彼に掴まれていた所が、とても熱く感じて気を紛らわせるように摩ります。
「……助かりました。ありがとうございます」
「ううん。全然」
「……」
「……」
妙に気まずい雰囲気が流れます。
その空気を断ち切るため、私から話をふります。
「その、落ち着くまで……座って待ちませんか?」
私の問いかけに、坂本くんは小さく頷くのでした。



