「坂本〜こっちこっち」
昼間の日照りで熱されたアスファルトのせいで、日が暮れても汗ばむほどの熱気に包まれている。
おまけに、大通りにひしめく人、人、人。
大通りだけでこの混み様。実際に祭りが行われる蓮水神社の鳥居をくぐるのも一苦労に違いない。
俺は人混みの中からこちらに手を振る早川を目印になんとか辿り着く。すでに、糸井と丹生さんも顔を揃えていた。
「ごめん、お待たせ」
「チョコバナナで許す」
「遅刻してへんし」
「女の子を待たせた時点で重罪ですけど?」
「……どんな理論やねん」
乱れた呼吸を整えて、あらためて早川を見ると、白地に紫陽花の水彩が描かれた浴衣姿だった。丹生さんもシックな黒地に赤い椿の花が咲いた浴衣を着ている。
「……お、おお。めかし込んでる」
「他に感想ないわけ?」
「ええやん。よお似合ってるで」
「……それ、倉橋さんに言ったら一発で幻滅されるよ?」
「…………、別に倉橋さんおらんし」
「? 坂本どうした? 今日元気ないじゃん」
「……全然元気やし」
早川が隣にいた糸井と丹生さんと顔を見合わせて、2人ともふるふると頭を振った。
何を思ったか、早川が急に俺の後ろを指差した。
「あ、倉橋さん」
「!」
「ウッソ〜」
思わず振り返って倉橋さんの姿を探してしまった。
もう一度顔を戻すと、眼前に早川のピースがドアップで視界を埋め尽くす。
もはや怒りの感情も湧いてこない。
無。無我の境地だった。
「……」
「……」
「……早川、もうやめときな」
「いや、うん。ガチでごめん。今のは冗談が過ぎた」
「……」
「ほら、みんな行くよ〜。早川さんがチョコバナナ奢ってくれるって」
「焼きそばも付けるって!」
「はは……任せなさ〜い……」
「てか、人ほんとに多いね。はぐれないようにしないと。迷子になりそう」
「あはは、そんな子供じゃあるまいし〜」
「それもそうだね、あはは」



