ぴこん、と耳元のスマホから着信音が鳴る。
布団にくるまって、強引に目を閉じる。
すると、今度は電話の着信音。腕だけ布団から出して、手探りでスマホを掴んだ。
「……はぁい」
『やっぱ寝起きじゃん。夏休み始まってそんな経ってないのに生活リズム乱れすぎでしょ』
「……なんやねん。開口一番説教とか。オカンか」
『誰がオカンだ。坂本、今日月夜見祭あるの、忘れてないでしょうね? 18時、図書館前のバス停集合。遅刻したら全員に焼きそば奢りの刑に処す。そのつもりで』
「ああ……、」
俺の返事を待たずして通話が切れる。相変わらずマイペースな奴だ。
スマホの電源ボタンを押すと、真っ黒な画面に自分の顔が映る。
「……はは、ひっどいかお……」
乾いた笑いが、一室に響き渡った。
☺︎
心のどこかで、彼女が俺に向けてくれる笑顔は、俺だけしか知らないと、思っていた。
俺にとって彼女が特別であるように、彼女にとって俺も特別であると自惚れていた。
昨日の夜までは。
その日の夕方、親父が帰りが遅くなると連絡が入った。
ひとりやしなんも作る気も起きんくて、コンビニで適当に買うついでに漫画雑誌を立ち読みしていたら、偶然、目の前の歩道を見知った人影が通り過ぎた。
言わずもがな、白波瀬くんと倉橋さんだ。
読みかけの雑誌をラックに戻して、俺は慌ててコンビニから飛び出す。
見失った彼らの後ろ姿を見つけ、俺は知らん人の民家の曲がり角に隠れて様子を伺った。
やっとること完全にストーカーだけど、背に腹は変えられん。火急の事態という奴だ。
立ち止まった彼らが、向かい合って何やら話し合っている様子。ここからは会話の内容までは聞き取れないが、どうも楽しげな会話をしているようではなさそうだ。
ふいに、倉橋さんが手を伸ばした。
二言ほど言葉を交わして、彼女の華奢な指に白波瀬くんの手が重なった。
それを目にした瞬間、全身の血が頭に集まったみたいな立ちくらみがした。
今すぐにでも、アイツの手首を掴んで振り払ってしまいたい。今までの比でないくらい、俺の心は嫉妬の二文字で覆い尽くされる。
けれど、剥き出しの衝動は、
「ふふ。何それ」
彼女の軽やかな笑い声によって掻き消された。
街灯の頼りない光を浴びて、向かい合うふたりはまるで映画のワンシーンを切り取ったかのよう。
そこにあるのは、ふたりだけの世界で。
俺の入る余地なんて、どこにもなくて。
俺が一等好きだと思った笑みを浮かべて、俺じゃない別の男に笑いかける彼女を、どうしようもなく恨めしく思う。
締め付けるような心臓の痛みで、呼吸すらままならない。胸の辺りを力任せに握りしめる。
……ああ、クソ。
「……きっつ、」



