隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 虫の声が草むらから夜の風と共に、流れ込んできます。僅かな街灯で照らされた彼の背中を、無言で見つめます。

 すると、それまで何も喋らなかった白波瀬くんが沈黙を破りました。

 「ああいうの、今までもあったのか?」
 「……」

 なかったよ、と答えたら彼はたぶん、嘘つくなと、とても怒ります。あったよ、と答えたら彼は何でもっと早く言わない、と怒ります。

 どっちに転んでも怒られるなら、前者よりは後者の方がいくらかましです。 

 「……まあ、少しは」
 「なんで言わないんだよ」

 足を止めた彼につられて、立ち止まります。

 「別に……言われ慣れてるからいいよ。どうせ祭りが終わったら会わなくなるし。気にしてない」

 白波瀬くんは少し間をあけて、自嘲気味に言いました。

 「……その中には、俺も含まれんの?」
 「なんでそんなこと聞くの?」

 ぴくり、と彼の肩が小さく跳ねました。

 ハイビームをつけた乗用車が一台、私たちの後ろから追い抜いていきます。

 再び訪れた静けさの中へ、深いため息がひとつ、落とされます。

 こちらを振り返った彼の瞳は、蜃気楼のように不安定に揺らいでいます。しかし、ゆっくりと閉じた瞼が再び開いた時──私の視線と交わります。

 「……倉橋は、可愛げない奴でも、つまんない奴でもねえよ」
 「……」
 「……」
 「お前が言うな」
 「……いひゃい」

 頬を容赦なくつねると、白波瀬くんは情けなく眉を下げました。

 そうして、私よりも一回り大きい彼の手のひらが、重ねられます。待ち続けた飼い主に甘える子犬のように頬に摺り寄せ、彼の吐息が頬に触れるほど近くまで引き寄せられます。

 逃げ場はもう、ありません。

 「……もう、仲直りしたい。……駄目か?」

 強引に許しを乞うくせに、拒絶を恐れていることが、指先の震えから伝わってきました。