その日の夜稽古は、散々でした。
本番最後の練習だと言うのに、先走る横笛の旋律に引っ張られて、足元が覚束なくなり、何度か足運びを間違え、気がそぞろになるばかり。
練習を終えて、時刻は22時。
白波瀬くんは、背中に不機嫌と書いてあるのが分かるくらい近寄りがたいオーラを発しながら姿を消しました。
私も帰り支度をして、宿舎を出る直前、呼び止められます。神楽囃子担当の神原さんです。
神原さんは辺りを見回した後、私に耳打ちしてきました。
「なんか、二人喧嘩してる?」
「喧嘩……というか……」
「なんとか明日までには仲直りしてね……。ほら、自治会のご老人連中はめんどくさい人多いからさ。今日の神楽見られたら、なんて言われるか……」
「……、努力します」
まとめ役として板挟みされることが多いのでしょう、神原さんは疲れた顔でよろしくね、と微笑みました。
☺︎
「遅い」
神社の入り口にある大きな鳥居のすぐ近くで、腕を組んで仁王立ちをする白波瀬くんがいました。
口を結んで眉を顰める姿を見るに、機嫌は直っていないようです。
「……もう帰ったのかと思った」
「女がこんな夜道歩いてたら危ねえだろうが」
「……」
彼はそのまま踵を返して数歩進んで、私の方を振り返りました。
「……何ぼさっとしてんだ。帰るぞ」



