「あの、」
「これ預かっといて」
私の言葉を遮って、白波瀬くんは身につけていたヘッドフォンを強引に装着してきました。
耳から知らないバンドの曲が流れてきます。
呆気を取られた一瞬の隙に白波瀬くんが宿舎の中へ入っていきます。
一体何を!?
彼の背中を追いかけ、入り口が見える小窓からひっそりと中を覗き見ます。
「こんばんは」
「あ、あら〜至くん、こんばんは」
突如現れた白波瀬くんに大層動揺しているようで、上擦った猫撫で声が聞こえてきます。内心、先ほどの会話が聴かれていたのか気が気でないのでしょう。
「井上さんたちは……集金の引き渡しですか? 夜分遅くまで大変ですね」
「え、ええ。そうなのよ」
「至くんも神楽のお稽古、大変でしょう。本当にご立派だわ」
「……ええ、まあ。そうですね。自分の孫ほど年の離れた子供相手に陰口で盛り上がるような暇は、確かにありませんね」
私は思わず頭を抱えました。
危惧していたことがまさに起ころうとしています。
ここからでも空気がヒリ付いているのが分かります。
まずいです。一触即発の雰囲気です。
「い、至くん? ちょっと言葉が過ぎるわよ」
「言葉が過ぎる? 過ぎた言葉で俺の友人を侮辱していたのは、あなた方の方では?」
「あなた、ちょっと誤解しているのよ。侮辱だなんて人聞きの悪い……ねえ?」
「え、ええ。私たちはただ、……そう。蓮水神社の神様だって、出来ればここで長いこと暮らしてきた方に神楽を踊ってもらった方が、喜ばれると思って」
「そ、そうですよ。もう少し相応しい方がいらっしゃったかも、と話していただけなんですよ」
「……そうですか。俺の友人は、相応しくないと」
白波瀬くんはそこで言葉を区切ると、井上さんが手にしていた集金袋の方へ視線をやりました。
そうして、ああ、とさっき思い出したかのような口ぶりで白々しく顎に人差し指を当てます。



