「俺のじいちゃん、昔、好きだった女を大阪の男に奪われてんだよね」
「ブハッ」
マジで意味わからんタイミングでぶっ込まれた話題に俺は、食べかけていたアイスを吹き出した。
気管に入って盛大に咽せる。
「大丈夫?」
「ゴホッ、ゴホッ」
「水いる?」
差し出されたペットボトルを押し戻して、俺は頭を大きく振った。
「……な、なんなん、急に。ブラックジョークすぎるやろ……関西人はみんなツッコミ得意ちゃうで」
「ごめん、ごめん」
白波瀬くんは全く反省の色などなく、軽く笑って受け流した。
「要するに……俺が言いたかったのは、」
椅子にしていた車止めから立ち上がり、白波瀬くんは俺を見据えてにっこり笑った。
「俺は、じいちゃんと同じ轍は踏まない」
「──」
「意味は分かるよね?」
顎を逸らして俺を見下す彼の表情からは、一切の焦りなどなく、余裕綽々としている。
完全に舐められてる。
ほんまムカつくコイツ。
俺は腹の底でぐつぐつ煮え沸る激情を抑え込んで、にっこり笑顔で返す。
「……あっそう。俺、売られた喧嘩は買う主義やねん。あとで後悔しても知らんで?」
「そっくりそのままお返しするよ」
「……」
「……」
互いに顔を合わせて、笑みの応酬。
沈黙を破ったのは、白波瀬くんのスマホだった。彼はスマホの画面を確認した後、
「俺もう行くよ。言いたいことは言い終わったし」
軽く手を振って身を翻した。
「じゃあね、坂本くん。よかったら、月夜見祭、見にきてよ」
「は?」
聞き返すよりも前に、それ以上に目を惹く物が俺の視界を捉えた。
白波瀬くんのポケットだ。
見慣れたパッケージを被ったヒーローのキーホルダーが、はみ出していた。間違いない、イースト菌マンだ。
その瞬間、脳内で補講の時の倉橋さんとの会話が再生される。
『これは……』
『倉橋さんもこねこねこパンの良さを分かってくれるようになったん? 嬉し〜』
『……知り合いにもらったんです』
『……へえ。そうなんや……』
「………………………は?」
俺の小さな疑問は、蝉の鳴き声にかき消されてしまった。



