隣の席の坂本くんが今日も私を笑わせてくる。


 彼、坂本侑の理解し難い奇行の数々にある程度の法則性がありました。

 その法則性に気付いたのは、奇しくも早川さんとの会話の中からです。

 彼女は、彼が次の日どんな奇行をするのか、予測し、そしてそれを見事に当てて見せました。
 
 今日が馬だから、次はまくら。
 馬の前は、栗まんじゅう。

 それは、分かってしまえば単純なことだったのです。

 ただ、一点解せません。
 栗まんじゅうの前、つまりは『よく分かるゲートボール』の冊子です。

 りんご→ゴーグルときたら、る、から始まり、く、で終わる言葉でなくてはなりません。

 一文字も掠っていないのです。
 あるいは、この考察が検討はずれである可能性も拭いきれません。

 それに、根本的なところは何も解決していません。
 彼が奇行に至る理由です。分からないことだらけです。
 
 思考の向こう側から、下校の時間を告げる鐘が鳴り響きました。

 私はハッと我に帰って立ち止まります。

 いけません、いけません。

 彼とはなるべく関わらないと決めたにも関わらず、油断すると彼のことばかり考えてしまいます。

 今日は課題が何個か出ていますし、早く家に帰って勉強しなければいけません。

 鞄を開き、今日の課題に必要な教材を確認していると、ノートが無いことに気づきました。

 どうやら自分の席に置き忘れてしまったようです。
 普段の自分なら無いような不注意です。仕方なしにきた道を引き返します。
 
 「る……く……、るー、るー、……」
 
 教室までの道すがら、頭によぎるのは『よく分かるゲートボール』です。表紙から察するにあれは解説本のようでした。解説……ルール、あ。

 「ルールブック……」