「僕たちもすぐに戻りますので。恭子さんはどうぞ挨拶回りをしてきてください」
「ええ、そうするわ。…乃々、婚約者の優しさをしっかり感じなさいよ」
なんにも思っていないけれど、うなずく。
ほらそれだけで満足するんだから、お母さんも財前さんも。
心なんかこもってないのに、それでいいってなる。
「乃々?今日はずいぶんと顔色が悪いんじゃないか?すこし休もうか?」
「っ…、大丈夫…です。お手洗いに、行ってきてもいいですか」
「ああ、いいよ。待ってるからね」
何かしらの理由をつけて触ってこようとする、見え見えの下心。
私は感じるたびに気持ちが悪くて仕方がない。
今もお手洗いと言って逃げ出すくらいには、私の心はボロボロだった。
「はっ…、はあ……!」
ホテルを出る。
車通りをなんとか避けて、それこそ街灯の少ない道ばかりを選んで走った。
ヒールの高い靴では走りにくかったから途中で脱いで、髪もほどいてまで。
まるで魔法が早く解けてと祈って、自ら庶民に戻ろうとするシンデレラ。



