七回目の、愛の約束



「……分かりました。契約の件、承ります」

「本当ですか!」

「あ、でも、1度、お会いしてからでいいのなら。あと、今日から泊まれるホテルを手配して下さい。今日帰ったら、嫌な予感がします」

「それは勿論です。貴女の安全を確保した上で、婚約が決まったことを、お伝えしましょう」

─何故か、当人でない千陽様が嬉しそう。

「本当にすみません。従姉妹が何をするか分からないので……ご迷惑をおかけします」

「それは構いませんよ。お痛が過ぎるようならば、宗家である朱雀宮に出てもらうまでですし」

神話の時代─三大名家は春夏秋冬の神様に愛され、子孫代々に至るまでの祝福を受けた。

そんな祝福を受けた4人の人間たちの子孫が三大名家の人間であり、彼らの存在によって、この国は幾度も助けられてきて、歴史には三大名家は欠かせないといわれるほど。

かつては四大名家と言われていたが、不運が重なり、冬の名家は滅んでいるため、現在は三大名家で名が通っている。

春の名家─橘
夏の名家─朱雀宮
秋の名家─桔梗

各名家はそれぞれ、分家を持っている。
良い例が、朱雀宮の分家─緋ノ宮、朱音の実家である。さらに、緋ノ宮の分家が火神なので、火神からすれば、朱雀宮は雲の上の存在だ。

なお、三大の各名家が持てる分家は三家までであり、朱雀宮には緋ノ宮のほかに、緋桜(ヒザクラ)、緋月(ヒヅキ)などがある。

この規則の時点で、火神の存在はイレギュラー、朱雀宮当主の意向で許されているに過ぎない。

「宗家に私が相応しいんでしょうか。婚約者候補なら、山ほどいるでしょう?」

「それは否定しませんが、契約結婚なんて名前を出したら、全員に怒られる自信があります」

「ああ……」

それはそうかもしれない。名家に嫁ぐ為に頑張ってきた令嬢達からすれば、屈辱に違いない。
─残念ながら、朱音はそんな令嬢らしさを持ち合わせてないが。

「期待に応えられるよう、頑張ります」

何も持たない朱音と契約結婚をして、橘の彼らにどんな利益があるのか分からないが、朱音は出来ることはやるつもりだ。

「どうか無理しないで。千景が貴女が良いと望んだだけで、特に大きな要求はしませんから。貴女は千景の元で、大学に通ったりして、普通に楽しく幸せに安穏に過ごしてくれれば」

「いや、それは……」

(……どうなのだろう。いや、それは、契約結婚が本当に必要なのだろうか?そもそも、千陽様の【最初は契約結婚という形】とはなんなのだろうか。その上があるのか?)

なんか色々なことが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え、何故か頭が痛くなってきた。