父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「一月の性愛未遂を取り戻す」

 低く熱っぽい声と首すじに触れる戸根院長の唇や舌先や髪の毛や高い鼻先が、私の体に激しい衝動を走らせる。

 とろけるようなキスに頬が落ちそう。

「どうやら俺は、なにか落としたみたいだ」
「ん?」
「伊乃里の頬だ」
「美味しい」
 
「怖かった、ずっと。あの日から男性と愛し合える日が来るとは思わなかった」

「もう恐れることはなにもない。伊乃里は本当の愛を見つけたんだ、俺という本当の愛をな」

 戸根院長の重みを心地良く感じていたら、覆い被さっていた体の左上半身を横に浮かせて心配そうに覗き込んできた。

「愛が理性を飛ばした、重くなかったか?」

 肩から二の腕、胸板、脇腹へと逞しく滑らかな曲線を描く体が眩しくて瞳の奥を見つめる。

「大好き、戸根院長に包まれて幸せです」

 激しい喜びが込み上げて、痛いくらいに鼓動が早いから胸を左手で押さえる。

 私の言葉に安堵の表情を浮かべる戸根院長が、私の両手をそっと自分の背中と腰に滑らせて再び体を重ね合わせた。 

「ごめん、重くないか?」
「ううん。戸根院長と、くっつくの大好き」
 しっとり汗ばむ背中をぎゅっと抱きしめた。
「至極の幸せな顔だな」
 耳に心地良い吐息に交じる小さな笑い声。
「酔っているように顔が赤いぞ」
「戸根院長に酔ってますもん」

「馬鹿」
 戸根院長が嬉しそうに口もとをほころばせた。

 ザルの私にとってのレディキラーのカクテルが戸根院長だったなんて灯台下暗し。




【了】