父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「明日の朝飯にもなるだろう、伊乃里には足りないか。マスター」

 私の返事も聞かずに幸星くんを呼んで、二人分の朝食を持ち帰りで追加オーダーした。

「私、戸根院長のうちに泊まるんですか?」

「一月のシンデレラ、よく聞けよ。あの日は救急が入って、性愛未遂に終わったからな」
 だから?

「伊乃里はセミナーの資料作成をやり終えたから、家ですることはない。翻訳した文献を知りたくないか?」

 釣る作戦か。

「うちで見せてやる。他の獣医よりも早く情報が手に入るぞ」

「行きます、早く行きましょう」
「待て、夜食と朝食の持ち帰り」
「あ、そうだった」
「食い気より勉強とは頼もしい」
「当たり前ですよ、新しい情報を自分のものにするんです」

 幸星くんから持ち帰りを受け取り、店を出た。

 ついこの間まで、風が冷たくて身を切るような寒さで分厚いコートなしでは肌寒かったのに、春の近さを思わせる柔らかい風とほのかな月明かりに包まれる。

「空気が春のにおい」
 
「二人同時につぶやいた言葉がまったく一緒だ」
「とても幸せな気分です」
「なっ」
 春の陽のぬくもりみたいな戸根院長に包まれたまま病院に到着して自宅へお邪魔した。

 ソファーでくつろいでいたら、ふと戸根院長が「今日、唯夏から手紙が届いた」って。

 アリスになにかあったの? それとも......

 まだ戸根院長に未練があって、また接触を試みたの?

 戸根院長が彼女を不安にしたくないって避けてもかまわず、自分の気持ちを押し付けてきた強引な四季浜さん。

 手紙の内容はなんなの、諦めきれなくて私に宣戦布告?

「気になる?」
 真顔で面白いことを聞くのね。

「逆に彼氏に元カノから手紙が届いて気にならない人っています? 散々、元彼にアタックしてきた元カノならなおさらのこと要注意でしょう?」

「終わったって伝えたのにな。手紙の封切って」
 人差し指と中指で軽くはさまれたモカ色の封筒を渡された。

 紙の端っこをちぎろうとしたら慌てて止められた。

「本当にガサツだな、そこにペーパーナイフがあるだろ。あ、いい、自分でやるわ」

 私の手から封筒を取ってペーパーナイフで丁寧に切って開けている。

 便箋に綴られた手紙を黙読していて視線が横に往復している。

「唯夏、彼氏がいるって言っていたよな」
「確かに聞きました、アリスのお餅のとき」
「だよな。つうかさ、既婚者だってよ」
「ちょっと頭の中が混乱。なんですか、それ」