父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 恥ずかしがるどころか素直に口を開けて、美味しそうに頬張っている。オス猫は甘えん坊だ。

「そぼろごはんも美味しいですよね」
「ああ、彩りも美味しい。次は汁物のキャベツと鶏もも。しっかりと冷ましてくれよ」

「けっこうな猫舌なんですね」
 ホントの猫だったわ。

 湯気が立つ熱々の汁物をふぅふぅ四回吹いてから、れんげで口に運んだら美味しそう。 

「さすがにマスターの店では、サバンナの飢えた肉食獣みたいにがっつかないのな」

「そりゃあねぇ、幸星くんも見てますし」
「イケメンが見てるとおしとやかに振る舞うのか」

「そういうわけではなくて。戸根院長もイケメンじゃないですか」 
「そうだがな」
 この方、否定しない。

「俺の前では女を棄てて髪の毛を振り乱して牛丼をかっ込むのに」
「私の流し込むように食べる姿に惚れたんですよね」

「愛しさを感じた」
 変なのよ、愛する着眼点がおかしな人なのよ。本当に脳神経外科には変人が多い。

「今の伊乃里は気取っている。他の男から見たら、とんでもなく特上の美女に見えてしまう。危険だ」

 鼻先に人差し指をあてて擦っている。考え事をしているときの癖。
 また細かいことを心配している。

「大丈夫ですったら。幸星くんがナンパをさせません、もししたら出禁です」

「されたことは?」
「ないです、幸星くんの嗅覚鋭いみたいですよ」

 実はある。だから出禁になる情報を知っている。
 言えば焼きもちを焼くから言わない。

「伊乃里が若い飼い主と受付で親しげに話していたり、診察室で二人きりになると心配だった。連絡先でも渡されはしないか」

 けっこう前から心配だったんだって。

「気にしてたの気付きませんでした」
「ガサツだから人の繊細な表情を読み取れないもんな」

 この私に向かって言うか? 物言わぬ動物相手に病気を治すって、とんでもなく高度な仕事をしているのよ。

 飼い主と患畜の繊細な表情を読み取れなきゃやってらんないわよ。

「そうして顔に出すなよ、勝ち気だな」
「気分屋、不機嫌、仏頂面の戸根院長にだけは言われたくありませんわ」

「いつもなら、ただのジャレ合いで済む。だが今夜は疲れている、やめにしよう。帰ろう」

「そうしましょう、お腹もいっぱいになったし」
「結局、二人分食べたもんな、よく食うよ」

「食べなきゃもたない仕事なんです。食べても食べても消費が激しくて追いつかないんです。太れません」

「うちに行ったらマスターの作ってくれた持ち帰り食って良いよ」

 ちょいちょいちょいちょい、待て待て待て待て。
 当然みたいに言うよね。私、今日は戸根院長の家に泊まるの? 帰るの?