父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 幸星くんが来たから、お礼を言おうと思ったら人差し指でシィって。リラックスしている戸根院長を気遣ってくれたんだ。

 その後、口だけ動かして戸根院長のことを猫、猫って。

「見てよ、オス猫は甘えん坊でしょ」
 また幸星くんにだけ聞こえるようにささやくと、笑顔で深く二度頷いた。

「こちら汁物です」
 にんじん、じゃがいも、キャベツに玉ねぎ。野菜がたくさん入っている。 

 鶏もものうま味がたっぷりだから、味付けは塩と少々の薄口醤油のみだって。

「あとこちらは鶏と卵の三色丼と野菜たっぷり豆腐サラダです、胡麻だれドレッシングで和えてます」
「優しくて美味しい味って見るだけで分かる」

「冷めないうちに紗月さん、院長先生にお声をかけてあげてください」
 そう言うと幸星くんは私たちから離れて行った。

「幸星くんが作ってくれましたよ、冷めないうちに召し上がれ」 
 私の手を握る手が赤ちゃんみたいに温かくなっていたから寝落ち寸前だったのかも。

「ほしくない?」
「どうぞ、お先に戸根院長から」
「俺の飯なのにもらう気満々なのか」
 驚くことなく納得したような笑顔を浮かべた。
「そう聞こえました?」
「聞こえたよ、いただきます」
「召し上がれ」
 
 背すじをぴんと伸ばして脇をしっかりとしめて、丁寧に箸を口に運ぶ姿はゆったりしていて優雅そのもの。

 しばらく見ていると、三種のメニューを半分ほど食べたあたりでチラッと見る困ったような目と目が合い、微笑みながら小首を傾げられた。

「食えよ、やる。その代わり燻製くれよ」
「どうぞ」
 食器をひとつずつ交換して自分の前に並べる。

「今のでお腹いっぱいになりましたか?」
「いっぱいかいっぱいではないかと聞かれれば、いっぱいではない」

「燻製凄く美味しいですよ、どうぞ」
「言われなくても食うよ。物ほしそうにしてるから、俺の飯を恵んでやったんだから伊乃里のも味見するよ」

 さっそくチーズの燻製を食べて満足そうな顔をしている。

「幸星くんが持ち帰りを作ってくれましたから、帰宅したらそれを食べれば良いですよ」

「人が食ってる途中のかっさらって行ったのに」
「戸根院長があまりにも美味しそうに召し上がっいるから食べたくなりました」
「だから、くれってか。まるで追い剥ぎだな」
「分かりましたよ。はい、お口開けてください、そぼろごはんですよ」

 れんげにそぼろごはんを乗せて戸根院長の口もとに持っていった。