父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「おまたせしました、生です」
「ありがとうございます」
 幸星くんが私の生やお酒の肴を移動してくれた。

「幸星くんありがとう」
「いいえ、どういたしまして。どうぞごゆっくり」

「さっき頼んだのは持ち帰りでお願いね」
「かしこまりました、祐希さんはお腹の方はいかがでしょうか?」

「ここに来ると決まって良い香りに(いざな)われて食欲が出てきます」 

「光栄の至りです、おまかせでお出ししましょうか」

「ええ、いつものようにおまかせでお願いします。今夜は食事メインでお願いします」

「かしこまりました、少々お時間をください。失礼します」
 
 戸根院長の長い脚にフィットしたグレーのスラックスに合う、第二ボタンまで開けた白いシャツが眩しいほどにカッコいい。

「お疲れ様です」
「お疲れ」
 まずは乾杯だ。

「セミナーの資料はどうだ?」
「おかげさまで良い仕上がりです、準備万端いつでもこいです」

「さすがだな」
 微笑みが少し疲れているみたい。

「頭が英語と日本語でいっぱいになって、どんな英語を見ても日本語に翻訳してしまうから疲れた」

 同時通訳を本業の仕事にしている方々でさえ、頭を使うから一度に十五分ほどしか脳がもたないって言うもんね。

 いくら英語に堪能な戸根院長だって連日連夜、翻訳をしていたら頭がこんがらがって疲れちゃうよね。

「まさか伊乃里に逢えるとは」
「嬉しいですか?」
「ああ、最上級に。伊乃里は?」
「得上級に嬉しいです」 

「着て来たんだ、似合っている。どちらが本来の姿なんだろう、今日も可愛いよ」

 リラックスして目を閉じたままの戸根院長の疲れている声も色気がある。

 シンデレラ気分を味あわせてくれた晩。山のように買ってくれたプレゼントの山。

 今日もプレゼントされたブラウスとスカートとパンプスを身に付けてきた。

 髪の毛もメイクもばっちりして、昔の本来の自分の姿に戻った。
 
 仲直りをした夜は......あんな日もある。戸根院長はどっちが本来の私の姿か戸惑っていたっけ、ちょうど今みたいにね。

「戸根院長はいつから通っていらっしゃるのですか?」

「開店当初から。近所だし居心地が良い。マスターも程良い距離感を保ちながら接してくれる」

「私も居心地良くて猫みたいに居ついちゃいました。幸星くんのかゆいところに手が届くサービスも心地良いんですよね」

「同感だ、マスターの気配り目配り心配りのバランス感覚が最高だ。ふらりと立ち寄ったのは、なにかの縁だったのかも」

 戸根院長なりの程良い距離感を保つために、十歳近くも年下の幸星くんにも敬う気持ちで敬語で通しているのかな。

 少し沈黙が続いたから、ふと見ると鼻の目の前で両手の指を組んで考え込むようにして目をつむっている。