父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 スカートとブラウスのコーディネートの組み合わせは何十通りにもあるほどたくさんプレゼントしてもらったから、通勤や学会やセミナーや勉強会に行くときに助かる。

 戸根院長が選んでくれたワンピース。鏡の前で体にあてて見たら似合うじゃないの。

 自画自賛でもかまわないの、私可愛い。これなら戸根院長が惚れちゃうわけだ。
 
 ポジティブで自惚れ屋な外科が集まると、私みたいなこんな奴ばっかりで騒がしい。
 まさにお祭り騒ぎにどんちゃん騒ぎ。

 あ、あれ? ワンピースに袖を通してみたは良いけれど、背中のホックが布地を噛んじゃった? それとも自分の毛先をはさんじゃった?

 上がらないんだよ、ホックも腕も。

 日ごろのストレッチをしない生活がこんなときに役立たずで証明されるとは不甲斐ない。

 腕が疲れた、ホックは後戻りも出来なけりゃ上にも上がってくれない。
 力まかせに引っ張ったら、うんともすんとも言わなくなった。

 うわぁん、戸根院長みたいに細かい作業が好きな性格だったらと後悔しても遅い、あとの祭り。

「どうだ?」

 タオルドライした半乾きの無造作な髪に、肩にかけたタオルとボクサーパンツでバスルームから出て来た。

「ちょっと、上になにか羽織るもんでしょ」
「あっ、悪かった、伊乃里の脱がせる楽しみ奪っちゃったな」
 じゃないだろうよ。
 冷蔵庫から缶ビールを数本出して、私の正面のソファーに座った。
 
 体にフィットしたTシャツを着た上からでも分かる。
 ほどよくついた筋肉に引き締まった体、これは筋トレや運動を定期的にしている証拠だ。

「なにジロジロ見てんだよ、エッチ、ドスケベ」
「な、なんでよ。下を履いてください」
「お前こそ着ろよ、早く見せてくれよ」
 缶ビールに口をつけながら、せっついてくる。

 どれだけビールが好きなのか。それとも、どれだけ私のファッションショーが見たいのか。
 
「背中のホックが動かないんです」
「不備があったのか、どこ」
 ソファーから立ち上がり、私の背後に回って状況を把握した様子。

「不備っていうか、なん」
 バツが悪くてごにょごにょ言ったが聞いてないみたいで言葉をかぶせてきた。

「癇癪おこしたのか? やり甲斐があるほど生地を噛んでいる。うしろ髪を手で上げるか前に流してくれ、邪魔」

 今は、なにを言われてもいつもみたいに反抗しない。おとなしくしてホックを直してもらわないと。

「ホント、なにしてんだよ。生地が傷まないか大丈夫かな、面倒くさくて力まかせに引き上げようとしたんだろ」

「すみません」
「図星だろ、ホントにガサツだよな」
「ぶつくさ言いながらも直してくれて優しいですよね」

 声がしてこない。

「なにか問題でもありました?」

「ただ集中しているだけだ、楽しくて夢中なんだよ。伊乃里、俺におもちゃを与えたな」

「ちっまちっま、ちっびちっび細かい作業好きですもんね。私だったらキィィィってなりそう」

「もうなっただろうが」

「きゃ、指で背中を触らないでください、くすぐったいです。生地もサワサワ撫でないでください、くすぐったぁい」

「故意的にやっていない。敏感なんだな、おとなしくしていろよ、ちったぁ我慢しろ」

 しばらく沈黙が流れるけれど戸根院長との沈黙は心地良く感じる。

「今、触れられているの分からない?」
「どこですか?」
「背中の真ん中」
 まったく分からない。
「感覚がなくなっているのか」 
 患畜の診療時みたいに真剣な声がする。

「見えないから気付きませんでした、背中がどうなってるんですか?」