「丸田マロくんです。私が入職した頃に来院してたモフモフぽっちゃりのミックス犬です」
「梨奈ちゃんが入職したってことは四年前?」
「そうです。それと丸田さんはですね」
梨奈ちゃんが耳元に口元を寄せてくる。
「あまりマロくんにお金をかけるタイプじゃないんです。今日は久々の健診です」
「おやおや、どんな風の吹き回し」
梨奈ちゃんによると、問診で抱いたときにお腹が膨れていた気がするとのこと。
頭の中では症状ひとつからあらゆる病気の枝分かれが始まったり、引き出しも開けたり閉じたりが始まったりする。
いざ診療を始めると、マロは診察台にお腹をつけて伏せているから腹痛はないといえるだろう。
「マロくん、ちょっと触らせてね」
腹部にコブがある、これ飼い主は気付かないものなのか。最初は、もっと小さかったはず。
お腹を触診すると脈を打っているのが分かった。コブは痛くないのか。
枝分かれした病気の中から、あらゆる可能性で絞り込んで、まずはマロをあずかった。
飼い主には待合室に退室してもらい超音波検査を施した。
「戸根院長、マロは大動脈解離の初期症状です」
「その根拠を飼い主に説明が出来るか?」
「私にやらせてください」
「任せて良いんだな?」
「がっかりさせません、私なら出来ます」
残っている解離が拡張傾向にあることは検査で確定した。
これは発症する前に治療を受けることを勧めるのがベストであると私的に結論付けた。
自覚症状がないことのほうが多い病気だが、ここまで分かっていて助けない手はない。
今なら危機回避が出来る。
不安げな飼い主を診察室に招き入れ説明を始めた。
「うちのマロは手術する必要がありますか? 全身麻酔も不安です」
「まだ、なんの症状が出ていないときに手術を受ける決断をするのは、なかなか大変ですよね」
飼い主の気持ちは痛いほど分かる。マロのためにどう納得させるか。
「発症してから緊急におこなう手術も、発症する前に充分な準備をして臨む手術もおこなうことは同じです」
「それなら発症してからでも遅くはないんじゃないですか」
どうしても飼い主は全麻のリスクが不安なのだろう。
「手術は同じです。であれば、より安全性の高い発症前のほうが賢明です」
羽吹も名垣も巨大な医療センターなので、両方とも年間42,000件以上の症例と2,500件以上の手術をおこなう全国でも有数の動物医療センター。
その中で鍛えられた今の私には、これまで学んだ最新の技術、知識を存分に生かして患畜の命を救っているスペシャリストという自負がある。
発症してからの手術が、どれだけ危険な綱渡りかリスクも散々経験している。
「梨奈ちゃんが入職したってことは四年前?」
「そうです。それと丸田さんはですね」
梨奈ちゃんが耳元に口元を寄せてくる。
「あまりマロくんにお金をかけるタイプじゃないんです。今日は久々の健診です」
「おやおや、どんな風の吹き回し」
梨奈ちゃんによると、問診で抱いたときにお腹が膨れていた気がするとのこと。
頭の中では症状ひとつからあらゆる病気の枝分かれが始まったり、引き出しも開けたり閉じたりが始まったりする。
いざ診療を始めると、マロは診察台にお腹をつけて伏せているから腹痛はないといえるだろう。
「マロくん、ちょっと触らせてね」
腹部にコブがある、これ飼い主は気付かないものなのか。最初は、もっと小さかったはず。
お腹を触診すると脈を打っているのが分かった。コブは痛くないのか。
枝分かれした病気の中から、あらゆる可能性で絞り込んで、まずはマロをあずかった。
飼い主には待合室に退室してもらい超音波検査を施した。
「戸根院長、マロは大動脈解離の初期症状です」
「その根拠を飼い主に説明が出来るか?」
「私にやらせてください」
「任せて良いんだな?」
「がっかりさせません、私なら出来ます」
残っている解離が拡張傾向にあることは検査で確定した。
これは発症する前に治療を受けることを勧めるのがベストであると私的に結論付けた。
自覚症状がないことのほうが多い病気だが、ここまで分かっていて助けない手はない。
今なら危機回避が出来る。
不安げな飼い主を診察室に招き入れ説明を始めた。
「うちのマロは手術する必要がありますか? 全身麻酔も不安です」
「まだ、なんの症状が出ていないときに手術を受ける決断をするのは、なかなか大変ですよね」
飼い主の気持ちは痛いほど分かる。マロのためにどう納得させるか。
「発症してから緊急におこなう手術も、発症する前に充分な準備をして臨む手術もおこなうことは同じです」
「それなら発症してからでも遅くはないんじゃないですか」
どうしても飼い主は全麻のリスクが不安なのだろう。
「手術は同じです。であれば、より安全性の高い発症前のほうが賢明です」
羽吹も名垣も巨大な医療センターなので、両方とも年間42,000件以上の症例と2,500件以上の手術をおこなう全国でも有数の動物医療センター。
その中で鍛えられた今の私には、これまで学んだ最新の技術、知識を存分に生かして患畜の命を救っているスペシャリストという自負がある。
発症してからの手術が、どれだけ危険な綱渡りかリスクも散々経験している。



