父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「戸根院長のお見立て素敵、こっちも可愛いです。あん、困っちゃう、選べないなぁ」
 つい独り言も出てしまう。

「すみません、こちらのハイヒールもお願いします」
「かしこまりました」
「戸根院長......」

「これから本来の伊乃里に戻るんだよ、俺に手助けさせてくれ」
 膝の上に置いた両手を温かくて大きな手がしっかりと握りしめてくれる。

「こちらのハンガーにかかっているワンピースと、あとそのスカートとその隣のスカートと、んんとそうだな、あとそこの白いブラウスとストライプのブラウスと、あの棚の上段と真ん中に飾ってあるバックもください」

「戸根院長ったら張りきりすぎです」

「今まで伊乃里は頑張った、まだまだご褒美が足りないぐらいだ。色々なことをしてあげたいし連れて行く」

 待つ間、イタリア製アンティークの本革ソファーに座り、ドリンクをいただきながら談笑した。

「お礼なんて考えるなよ、俺がしたくてプレゼントしたんだ。言葉に甘えてくれよ、分かった?」

「ありがとうございます」
「伊乃里さえ居てくれれば、それだけで良い」
 男のプライドというやつに甘えさせてもらうのも悪くない。

 店内を出るまで院長回診みたいにスタッフの方々が、私たちが購入した数々の品物を持ち、私たちのうしろをついて来る。

 それぞれの顧客同士が顔を合わせない完全個室で、ゆっくりとショッピングが出来る仕組みなんだ。

 ラグジュアリーホテル同様、バレーサービスでエントランスホールに戸根院長の愛車が横付けされて、スタッフの方々が至れり尽くせり質の高いサービスを提供してくださる。

 丁寧にお辞儀をして車が走り去るまで見送ってくれた。

「お嬢さま、次はなにがしたいですか? なんなりとおっしゃってくださいませ」
 冗談っぽく戸根院長が聞いてくる。

「戸根院長と居られるだけで幸せです」

「可愛いこと言うなよ、いつもと違ってしおらしいと調子狂うな。帰したくなくなるじゃないか」

 優しい瞳は真っすぐ前を見据え、フッと鼻で軽く笑っている。
 まるで冗談だよって言っているみたい。

「帰りたくない」
 一大決心した私の強い想いを察したみたいで、冷静沈着な戸根院長の右側の口角がピクリと動いた。

「俺らも良い大人だ。お互いが愛し合っているなら自然な流れで、こういうこともある。でもな」

 この()は、よく考えろみたいな戸根院長の想いなのかな。