父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 普段のドクターコートやスクラブ姿もかっこいいけれどスーツ姿もかっこいい。見慣れないから、とても眩しい。

 難しい顔をしてノートパソコンの画面を見ていた戸根院長が私を見つけたとたん、心がほのかに温まるような微笑みに変わっていた。

 恥ずかしげもなく一心に見つめてくるから、こっちが気恥ずかしくなる。

「どうですか? なんか恥ずかしくて。でも今とっても嬉しいんです」

 ふかふかのカーペットの上を白い七センチヒールのパンプスで戸根院長の前に足を踏み入れる。

 艶々に輝き天然のやや茶色がかったサラサラヘアーに、戸根院長のグレーのスーツと並ぶと様になるワンピースと小ぶりのバック。

「本来の伊乃里の姿がこっちだったのか、きれいだよ。今までのとっ散らかった伊乃里も味があって良い」

 シミ抜きやほつれを直せなくなることが残念そう。

「鏡の前においで」
「はい」
 鏡の前に立つ私のうしろに立つ戸根院長の顔は鏡越しに見ても上機嫌そう。

「以前、話した俺の愛する者だ」
「あの話は私だったんですか」
「ああ、そうだ、伊乃里だ」
 想像もつかなかったから面食らってぽかんとする。

「あのとき伊乃里は俺に愛する者を会わせろとせっついたよな。あれには困った」

 懐かしそうに遠くを見る目も困ったって言っている。
 
「会わせろと言われても、俺の愛する者をお前に会わせることは出来ないだろう?」

 鼻先に人差し指をあてて擦っている。考え事をしているときの戸根院長の癖。

「さっき思い付いたんだ、鏡の前でなら会わせることが出来ることを」
 長身の戸根院長が屈むようにして優しくうしろから私を抱きしめた。

「この人が俺の愛する女性だ」
 鏡越しに自信たっぷりの余裕な目つきと目が合う。
「どうだ、とても魅力的な女性だろう?」

「この女の人ってガサツで大ざっぱで勝ち気で」
「それまだ続くのか? 俺の好きな人の悪口を言うのはやめてくれるか?」

 整った顔が急に崩れると喉の奥からくすくす笑い声が漏れてきた。

「伊乃里は、そこの椅子に座って。すみません、そこのハイヒールを貸してください」

 戸根院長は談笑をそのまま引きずった笑顔でスタイリストに声をかけている。

 桜の花びらみたいな淡い桃色のハイヒールを手に取った戸根院長は、私の前に片膝をついた。

「足を見られるの恥ずかしいです」
「きれいだよ」
 戸根院長が上目遣いで眩しそうに目を細めて微笑んだ。
「シンデレラみたいですね、エヘ」
 あぁぁ、恥ずかしい、照れ隠し照れ隠し。

「まさか時計の針が午前0時を回ったら帰るつもりか?」
「へ? さ、さぁどうかなぁ、エヘヘへ」
 この人、なに言ってんのよ。

「フッ」
 鼻で笑われた。動揺したの悟られた?

「こっちも似合うよ」
 パンプスを脱がされるのは初めてのことでくすぐったくて、体がよじれる。

「動くな、すぐだから我慢するんだ」

 動物をなだめるときみたいな控えめな笑い声が聞こえて、宝物を扱うように優しくハイヒールを履かせてくれた。