父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 お店とバレーサービススタッフの連携でエレベーターホールに到着したころには、すでに戸根院長の愛車がエントランスに横付けされていた。

 するとドアマンが車のドアの開閉をして、走り去る車に向かって他のスタッフも整然と並びお辞儀をして見送ってくれた。

「さっきの話、名垣院長のことでひとこと良いか?」
 気遣ってくれて私の反応を見ながら聞いてきてくれる。

「一案として参考にしてくれ、訴えることも出来る」
「それも考えてはみたんですけれど、狭い獣医療業界ではデメリットの方が大きくて諦めました。それに......」

「うん、分かった」  
 口調は淡々としているけれど、声はとても優しい。
 思い出したくない過去をほじくり返すような野暮な人じゃないのは知っている。

「時間は大丈夫か?」
 手首の内側の時計に目を落とすと二十時。
「大丈夫です」
 私の返事を聞くや否やUターンをした。

「あっ、うちと反対方向。どこに行くんですか」
「俺に任せて」 

 問答無用とばかりに車を走らせるクールな横顔は、鼻柱ひとつ動かさず真っ直ぐに前方を見ている。

「はい」 
 私の顔には自然に笑顔が浮かんだはず。私を守って助けてくれた戸根院長になら素直に従える。

 この後、戸根院長が個室高級ブティックを併設した個室高級美容室に連れて行ってくれて、私はすっかり昔の姿に戻れた。

 名垣院長の亡霊にずっと怯え続け、犯されないように地味にしていた私はもういない。

 最初は、美しく施されていく自分がくすぐったくてヘアメイクの仕上がりを戸根院長に見つめられるのも気恥ずかしかった。

 『俺がいるから、もう心配ない』と言った戸根院長が、私にきれいな輝きを取り戻してくれる。

 個室の高級ブティックではスタイリストさんと相談しながら、頭の先から爪の先までコーディネートを楽しんだ。

 扉を開けると難しい顔でノートパソコンに向かっている戸根院長の姿が視線に入ってきた。
 男らしさを感じる真剣な顔に見入ってしまいそう。