父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「きみには恵まれた賢さと容姿とスタイルがあった。足りなかったのは、その今の勝ち気さだけだった。俺は勝ち気な女がタイプだ」

 名垣院長はうしろから抱きついてきたが、(すんで)の所で胸を揉まれずに逃げ切った。

「きみが強気になればなるほど抵抗すればするほど、コイツが興奮するんだ。それでも抵抗するのならジレンマに陥るがいい」

 冗談じゃない、抵抗する一択よ。振り絞る力で振り切ろうとした、そのとき座布団に足をとられよろけ、腰をがっつり持たれしがみつかれた。

「つかまえたぞ、逃げられると思うなよ。可愛がってやる、どんな攻められ方が好きなんだ? ん? 言ってみなさい」

「離して!」

「離すもんか。気の強い、その瞳に睨まれると手に入れたい欲望に火がつく。あのときは未遂で終わった」

 “あのとき”
 私の頭の中から追い出せないほど記憶に残る忌まわしい悪夢の時間。

「しかし今夜は逃さない。きみを手に入れる機会を虎視眈々と狙っていた」

 大きな音を鳴らして唾を飲み込むと舌なめずりをして、あざ笑うかのような顔には嫌悪感しかない。

「今日は覚悟するんだな、どれだけこの瞬間を待ちわびたことか」
 畳に押し付けられキスをされそうになった。

「舌を入れてきたら噛みちぎってやる」
「好きだよ、小生意気な小娘が強がるところ」

 飲酒後の口臭と中年男性特有のすえた体臭が鼻腔を刺激するから吐き気がする。

 名垣院長の腕を振り解こうとしても息が詰まるほど抱きしめられ、私の内ももに当たる名垣院長の股間のものが熱く大きくなっている。 

「最低!」
 衝撃を受けて名垣院長を思いきり蹴り上げ突き飛ばしたが逃げる片足をがっちり掴まれた。

「やるじゃないか」
 引いて歪めた唇が意味ありげなあざ笑いを浮かべる名垣院長の方へと引きずり込まれた。

 今、声を出さなきゃ後悔する。

「声を出しますよ」
「出してみろ、きみが恥をかくだけじゃあ済まない」
「脅しですか」
「きみが俺を誘ったんだ」
「卑怯者、嘘をつくのはやめてください」

「きみが俺を誘惑した事実が公になれば、戸根の監督不行届が明るみに出て獣医療業界が震撼するぞ、見ものだ」

「どうして戸根院長が監督不行届なんですか、戸根院長は関係ありません」

「俺が戸根を陥れることなんか赤子の手をひねるよりも簡単だ、この業界にいられなくしてやる」

「そんな......」

「戦意喪失か。言ったよな、俺は勝ち気な女がタイプなんだ。さっきの威勢はどこにいった? 戸根のために諦めろ、きみの極上の体を俺に差し出せ」

 頬に挑むような笑いを浮かべた名垣院長が、壁際に追い詰められた私の膝と膝の間に右足を入れて来た。

「やっと堪忍したのか、清楚でぷっくり柔らかそうな甘い唇を奪いたかった。下の口もぷっくり柔らかくなって濡らしながら俺を迎え入れたいんだろ」

 首すじに顔を埋められて思いきり抱きしめられた。

「慌てるな、今すぐに抱いてやるから」
 どれだけ自信過剰なの、狂っているとしか思えない。

 ここで私さえ我慢すれば戸根院長は被害を受けないんだよね。
 これが業界のしきたりなら従うしかない。腹を括ってゆっくりと瞳を閉じた。