父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 人を品定めするような下品な視線にニヤリとするたびに歪む口もと。
 中年のいやらしさがにじみ出ていて鳥肌が立つほど気持ち悪い。

「ご要件はなんでしょうか」
「つれないな、同期とはやけに楽しく呑んでいたじゃないか」

 薄気味悪い、どこかの個室からでも覗いていたの?

「今から発表内容について聞かせてほしいと戸根院長直々に懇願されたんだよ。俺の発表良かっただろ、しっかりと目に焼き付けたか?」

「戸根院長が聞かせてほしいと願うほどの価値がないのは、ご自身がいちばんご存知でしょう」

 戸根院長が名垣院長の発表内容を? 笑わせないでよ。

「なぜこの個室なんですか?」
「きみが出入りするのを見かけたから」
 うす気味悪い人、いつから見ていたのよ。

「戸根院長が来るまで黙っていてください、やることがあるので」
 かまわず電子カルテのチェックを続ける。

 すると名垣院長が私の隣の席に座り、パソコンを操作する私を感心したように覗き込んでいた。

 白髪交じりのオールバックの髪からは油っこい整髪料の臭いがする。

「なんです? 向かい側にお座りにならないなら、私が移動します」
「いいから続けなさい」

 こんな奴より患畜に急変や緊入や救急がないかの方が優先だ、動物の方が気にかかる。

 そのうち名垣院長の視線が胸や太ももに向き、まずいと思った瞬間に太ももに手を伸ばしてきた。

「なにをするんですか、ご冗談はおやめください」 

 最初は事を荒らげないように穏便に済まそうとしたが、嫌な予感がして離れようと立ち上がったらいきなり腕を掴まれ抱きしめられた。
 
「やめてください、誰かが来たらどうするんですか」
 言葉で落ち着かせようと努めて低いトーンで冷静に対処した。

「名垣院長の女癖の悪さは噂通りでした。各階に愛人がいることや愛人を婦長やチームリーダーにする話」
 
「それがどうした、獣医療業界じゃ当たり前のことだ。女遊びをしながら、なおかつ愛人を囲うことのなにが悪い」

 抱きしめる力を緩めることもせず、尚も擦りつけながら私の手を握ったまま導こうとする。

「やめてください、私は合意しないです」
「金銭要求か、金がほしいならいくらでもやる」

 腰に手を回され下半身を擦りつけようとされたから必死に抵抗する。

「やめて、いや、やっ」
「その声がよけいに興奮させるんだよ」

 抵抗すればするほど興奮した名垣院長はエスカレートしていき、個室の畳の上でもみ合いになった。

「あのころと違って、あんたなんかって言いたげな気の強い顔をするようになったな、その嫌悪感丸出しの顔は嫌いじゃない」

「周囲の人間が私の変わりように驚くほど、あんたのおかげで私は強くならざるを得なかった。壊れそうな自分を守らなきゃいけないのよ」

 男の力には敵わないが反撃しないと力で負けてしまう。弱味を見せるわけにはいかない。

「おやめください」
 抵抗したその拍子にあらわな格好で倒れてしまった。

 それを見た名垣院長が興奮して襲ってきそうになったから慌てて立ち上がった。

 まだも逃げようとすると強い力で押さえつけられたから抵抗をし続けたら、その行為は名垣院長をもっと興奮させたようで首すじに顔を埋めてきた。
  
 恥ずかしい気持ちと騒いだら大変なことになる気持ちが入り交じり抵抗出来なくなった。