父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 ごく一部なんだけれど葉夏の言う通り。
 親子ほど年齢の離れたおっさんやお爺さんからは、女医は獣医師扱いされないことが多々ある。

 院長を出せ、お前じゃダメだとかお前に治療が出来るのかとか平気で言ってくる。
 世の中には色々な人がいるのはサービス業をしていると痛感する。

 愚痴っちゃったが、こんな屈辱にも耐えながら女医は毎日淡々と過ごしているのだよ。

 やっぱり、こうして共感出来る人と定期的に会っていると精神衛生上良いなぁ。

 いつの間にか卯波くんが飲み物をオーダーしていてくれて各自に回してくれる。

 このさりげさなは一生もんだね。学生時代から、よく気付いてくれて先回りしていた。

「伊乃里、しっかりと食べているのか? メニューを見たら好きなものをオーダーして食べろ」

「お前はオカンか」

 卯波くんが宝城くんのツッコミを相手にしないで、スタッフがタイミング良く持って来てくれた器を私の目の前に置いてくれる。

「私が好きなオムレツとチーズフライとうざくだ。どうして分かったの? 特にうざくなんて滅多に好きな人いないのに」

「なんとなく、ここが」
 胸に手を置き、意味ありげなもったいぶった切れ長の二重の瞳が瞬いて長い睫毛を揺らす。

「伊乃里、しかしお前、よく食うな」

「本当に宝城には呆れる。お前は生まれてくるときに、おふくろさんのお腹の中にデリカシーを置き忘れたまま生まれてきたよな」

「よく友だちになったわよね。清明、こいつのなにが良いのよ、どこが良いの?」

「卯波はイケメンイケメンって大勢の女に取り囲まれるのが嫌なんだよ。代わりにイケメンの俺が餌食になってシッチャカメッチャカにされていただろ?」

「そういうことだ、宝城の言う通りだ。矢神も食べろ」
 相変わらず卯波くんは宝城くんの言葉を軽く受け流して、オムレツを取り分けて葉夏の取り皿に置いて、チーズフライを添えてあげている。

「いるよね」
 思わず卯波くんに確信的に断定した。
「なにが」
「彼女」
「いない」
「気になる人ぐらいは」
「いない」
 食い気味に答えてくる。これだけ気配り心配りが出来て、彼女がいないなんて変。

「俺に彼女がいないのがそんなに変なことなのか。本当にいないのかと疑ってもいるし」

「さっきから卯波くん、どうして私の考えてることが分かるの?」

「そういえば卯波さ、うちの緒花にも言われてるよな」
 宝城くんの問いかけに卯波くんが軽く頷いた。