「おおお、卯波が微笑んだぞ。四年に一度の笑顔だ、しっかり目に焼き付けとけよ」
そうだ、そうだ、そうだった。瞬かない強い目や意味ありげな口もとはミステリアスで無口で、あまり卯波くんと喋った記憶がない。
「卯波は良いよな、喋らなくても許される男だもんな」
「卯波くんは、そこにいるだけで十分。存在していてくれるだけで良い」
「神様が清明を造ったとき、周囲に見せびらかしたでしょうね。自慢したくなるわよ、この自信作を」
「葉夏の言うこと、ごもっともね」
「こんなところでなんだから食事がてら呑もうぜ」
「賛成! 紗月も時間大丈夫でしょ?」
「うん、行こ行こ」
「そうこなくっちゃ、清明も良いわよね?」
返事のしるしに頷く卯波くん、相変わらず喋らないんだ。
学会の会場だった東京国際会議場近くのラグジュアリーホテルで名の知れた外資系ホテルの中にある隠れ家個室に入った。
とりあえず生で乾杯して、宝城くんと葉夏がメニューを見ながらあれこれオーダーした。
「葉夏、今日は人見くんは?」
「一緒に来ようと思ったら救急が入っちゃったのよ」
「そっかぁ、残念」
「私がどうしても聞きたい発表があったのを俊介は知ってたから行っていいよって。相変わらず優しいでしょ」
人見くんと葉夏は職場まで一緒でクリーレン動物総合医療センターって巨大センターで働いていて、チームまで一緒で腐れ縁だって葉夏は笑っている。
「紗月? 今の職場はどう?」
元気な葉夏の声がワントーン下がり心配そう。
「うん、ありがとう。戸根院長のところに来た今は幸せ。なにも怖くない」
「よしよし、戸根院長のところに行けて良かった。嫌なこと思い出させてごめんね」
隣に座る葉夏が私を包み込むように抱きしめてくれる。
「出た、獣医学部のころから敏腕院長やエリート獣医師から、うちでとるなら戸根祐希と言わしめるほどだった伝説の獣医師」
「聡一郎、あんただって頼りにされてたから、開業するときは残念がられてたじゃないのよ」
「おまけに周囲の動物病院は俺が独立して開業するってなったら、戦々恐々としたってさ」
水みたいに乾杯の生を呑み終えた宝城くんがバーボンで喉を潤す。
「清明とタッグを組んだからよ」
「矢神言うよな。褒めてくれるのは、うちのアニテクの坂さんだけだ」
普段は動物を救う優しいスーパーヒーローとして、飼い主から尊敬され黄色い声援を浴びせられているような超絶イケメンの宝城くんでも、同期には遠慮なく言われっ放しになるから面白い。
「伊乃里さ、学生時代から羽吹の神経内科まではメチャクチャおとなしかったよな。それがどうだ、名垣で消化器外科に転科したら強くなったよな」
宝城くんが同意を求めるように葉夏や卯波くんの顔を順繰りに見た。
「なんでだ?」
な、なに、いきなり私に話題振る?
そうだ、そうだ、そうだった。瞬かない強い目や意味ありげな口もとはミステリアスで無口で、あまり卯波くんと喋った記憶がない。
「卯波は良いよな、喋らなくても許される男だもんな」
「卯波くんは、そこにいるだけで十分。存在していてくれるだけで良い」
「神様が清明を造ったとき、周囲に見せびらかしたでしょうね。自慢したくなるわよ、この自信作を」
「葉夏の言うこと、ごもっともね」
「こんなところでなんだから食事がてら呑もうぜ」
「賛成! 紗月も時間大丈夫でしょ?」
「うん、行こ行こ」
「そうこなくっちゃ、清明も良いわよね?」
返事のしるしに頷く卯波くん、相変わらず喋らないんだ。
学会の会場だった東京国際会議場近くのラグジュアリーホテルで名の知れた外資系ホテルの中にある隠れ家個室に入った。
とりあえず生で乾杯して、宝城くんと葉夏がメニューを見ながらあれこれオーダーした。
「葉夏、今日は人見くんは?」
「一緒に来ようと思ったら救急が入っちゃったのよ」
「そっかぁ、残念」
「私がどうしても聞きたい発表があったのを俊介は知ってたから行っていいよって。相変わらず優しいでしょ」
人見くんと葉夏は職場まで一緒でクリーレン動物総合医療センターって巨大センターで働いていて、チームまで一緒で腐れ縁だって葉夏は笑っている。
「紗月? 今の職場はどう?」
元気な葉夏の声がワントーン下がり心配そう。
「うん、ありがとう。戸根院長のところに来た今は幸せ。なにも怖くない」
「よしよし、戸根院長のところに行けて良かった。嫌なこと思い出させてごめんね」
隣に座る葉夏が私を包み込むように抱きしめてくれる。
「出た、獣医学部のころから敏腕院長やエリート獣医師から、うちでとるなら戸根祐希と言わしめるほどだった伝説の獣医師」
「聡一郎、あんただって頼りにされてたから、開業するときは残念がられてたじゃないのよ」
「おまけに周囲の動物病院は俺が独立して開業するってなったら、戦々恐々としたってさ」
水みたいに乾杯の生を呑み終えた宝城くんがバーボンで喉を潤す。
「清明とタッグを組んだからよ」
「矢神言うよな。褒めてくれるのは、うちのアニテクの坂さんだけだ」
普段は動物を救う優しいスーパーヒーローとして、飼い主から尊敬され黄色い声援を浴びせられているような超絶イケメンの宝城くんでも、同期には遠慮なく言われっ放しになるから面白い。
「伊乃里さ、学生時代から羽吹の神経内科まではメチャクチャおとなしかったよな。それがどうだ、名垣で消化器外科に転科したら強くなったよな」
宝城くんが同意を求めるように葉夏や卯波くんの顔を順繰りに見た。
「なんでだ?」
な、なに、いきなり私に話題振る?



