父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 居抜きで入る獣医師いるかな。まずスタッフ集めから気が遠くなる作業だわ。

「日本初の血液バンクセンターでも作れば、自分の名が売れるというのならば、あの手この手を使ってでも作ろうとする」

「私は、あの手この手に使われそうになったってわけですね」
「腑抜けでも理解出来たか」
 もう腑抜けでもなんとでも言えって。

「今思えば、羽吹副院長からうまく血液バンクセンターに話を持っていかれた気がします」
 あれもこれもと、なにもかもが疑わしくなる。

「獣医師は聖人君子でもなければスーパーヒーローでもない。出世欲、功績欲、金銭欲、名声欲などの欲望をたくさん持ち合わせている」
 
 動物好きに悪い人はいない。それに親身になって病気を治してくれる頼れる先生。

 女遊びなんてもっての外、手を握らんばかりのあふれる優しさで接してくれるスマートな対応で爽やかな先生。

 なんていうのが世間一般の獣医師のイメージ。

 昔は動物が好きだから獣医になったって獣医がほとんどだった。

 でも今の時代、完全に金儲けのためと割り切って獣医になるのもいる。
 実際、金儲けが出来ているから。
 
 動物に愛着はないのに国家資格を取るぐらいの賢い頭があるのが厄介。

 医療ミスで裁判になっても、必ず絶対に獣医師は負けることはないと断言出来る。
 
 これを分かっているから獣医師になって動物病院で荒稼ぎが出来るの。

「出世欲は上が詰まっているから、まだ手中に収められない。“副院長”では羽吹さんのプライドが許さないのだろう」  

「そこで先に名声ですか」
「功績もそこそこだ。今のポジションだと、あとは自分のプライドを守るには名声を狙うしかない」

「たくさんお金があっても強欲は止まらず、お金があればきれいな女性が寄って来るから性欲も止まらずですか?」

「俺に聞くな」
「戸根院長では参考になりませんわ」
「助手席にお前を乗せているぐらいの男だからな」
「そうですよねなんて絶対に言いませんよ、意地でも。私だって良い女ですから」

 しんと静まり返った車内。共感しましょうよ、戸根院長。
 頼むよ、自分で良い女なんて言ったの凄く恥ずかしいのよ。

「ところで、さっきから羽吹さんより俺の言い分を信じているのか?」
 はっ、そうだ、さっきからすべて戸根院長のことをまるごと信じ切って鵜呑みにしている。

「そこまで信じ込んで、俺を怪しいと疑わしく思わないのか?」
 逆に怪しんで欲しいの?

「なんだよ、じっと見て。俺の顔になにかついているのか?」
「真っ直ぐな戸根院長の瞳には嘘はありません」

「運転中だ、真っ直ぐ前しか見ない」
 ああ言えばこう言う。

 なんだかんだ、今回の戸根院長は正義の味方スーパーヒーローだったね。