父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 近くのパーキングに車を停めて店に入った。

 戸根院長はがっつりステーキを食べて、私は望み通りカレーをごちそうになった。

 満たされたお腹はいっぱい。流れる車窓はクリスマス一色。

 見飽きた街の風景らしくて戸根院長はクリスマスの話題も出すことはなく、まだ私のことが心配なのか懇々(こんこん)と説教っぽいことを言い聞かせてくる。

「利用されそうだったんだ、軽く見られているのが分からなかったのか」

 ハンドルを握りながら指先で軽くリズムをとっている。
 決して表には出さないけれど、私の鈍感さにイラッときていたのかな。

「危機感がないんだよな、危機回避能力0だ」
 独り言のあと、軽く唇を噛んでいるからイラッとしたんだな、こりゃ。

「思い出すとムカァァァ、カチィィィィンってくるんですよ、こめかみがチリチリ破けそう。動物好きを利用しようとして腹立つ!」

「腹立つよな、分かる」
 へぇ、いつもは口が悪いのに、たまには共感してくることもあるんだ。

「間一髪、助けてくださってありがとうございます」
「助けることが俺の使命だから」

 さすが獣医師、言うことが違うわ。

 一応、私も獣医師の端くれなんだけれども、動物以外でとっさにこんな言葉は出てこない。

「獣医療以外でも助ける使命?」
「ああ。で、誰を助けることが俺の使命なのか聞かないのか」

「誰、んんんんん誰。誰?」 
 ぽつりと出た独り言。
 車内の沈黙も忘れるほど頭の中で誰というのを考えた。

「心で感じないなら頭で考えても出てこない。やめておけ、この鈍感野郎」
 口、悪っ。

「まだ、羽吹さんのことで頭が沸騰しているようだ。他の奴のことは思い浮かばないだろう」

 言い得て妙。悔しくて歯ぎしりで歯が真っ二つに割れそう。

「血液バンクセンターが実現出来たら良かったのに。こんなに悔しいぬか喜び初めてです」
 お金どうこうよりも、こっちの方が腹立つ!

「血液バンクセンター設立計画は、あながち嘘ではなかったのかもしれない」 

「それなら改心して実現してくれたらいいな」
 スズメの涙ほどのわずかな希望が独り言で口から出た。

「羽吹さんは改心はしない、女癖の悪さは一生モノだ。死ぬまで浮気する」
「ですよね」

「そして、伊乃里みたいなマヌケをカモにして金銭を騙し取る」
「もうこりごりです、てかマヌケはないでしょう」
「ごめん」
「謝れば良いんですよ」
「腑抜けだった」
「違う」

「女から金銭を騙し取ってたら、いずれ羽吹動物医療センターは悪評で潰れるんじゃないのか」