父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「これは、いつ着たんだ、洗濯しても落ちないシミか。なにを食べたか覚えているか?」

 え、ここはシミ抜き警察署の取調室なの? で、この人シミ抜き刑事(デカ)
 
 胸元に鼻先を持ってきたのは匂いを嗅ぐためだったのか。バカバカしさがおかしくて固まっていた体の力が抜ける。

「明日、この洋服を持って来い、必ずだ」
 そんな念を押すほどのものか?

「牛丼の汁を飛ばしたドクターコートみたいにシミ抜きをするんですか?」

「ああ、これも落としてやる。あれも見事だっただろう、真っ白になった」
 シミとの戦いみたいにシミを見つめている。

「こんなに目立つところにあるシミでも気にならないのか」
 こいつは利口かバカかと言いたげな見極めるような目で私を見ている。

「腹減ってないか?」
「そういえばブレンドに少し口をつけただけです。お腹ペコペコです」
「なにが食べたいんだ?」
「カレー」

「好きなだけカレーを飛ばして食べろ、俺がシミ抜きしてやる」
 変人の思考回路ってなんなんだろう、変なの。

「入りたい店を見つけたら言えよ」
「はい」
 助手席で前屈みになって美味しそうな店を必死に探す。
「サバンナで獲物を探すライオンみたいだな。生命力あふれるお前のそういうところが好きだ」

 逞しいとか動体視力が野生動物みたいで素晴らしいとか、わけ分からないことで褒めてくる。

「別にどこの店でも良いんだが。一応、形だけでも俺が食べたいもの聞かないか、普通」

「アァァ、ごめんなさい。なに食べたいです?」

「気持ちがこもっていないし、目は店探しでこちらをまったく見ない」
「カレーに焼きもち焼いているんですか、お腹すいたわぁ」

「羽吹さんの前では猫かぶっていたのか、しおらしくおとなしかった」

「戸根院長の前でも、おとなしく引っ込み思案でおとなしくしていましょうか。戸根院長の女性のタイプでしょ」

 黙った、図星か?

「いつから探偵ごっこをしてたんです?」

「最新型の動物監視用の携帯だから、当然遠隔で確認出来るGPS発信機も搭載されている」
 スパイも真っ青だわ。

「あっ、あそこのお店にしましょう」
「了解」
 ステーキハウスみたいだけれど看板にステーキと一緒にカレーのイラストが描いてある。

「どこに伊乃里が居たかも分かった。それに羽吹さんとのやり取りも聞こえた」
「え?」
「なんでもない。お前は店が見つかれば良いのか、空腹の肉食獣め」