父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「初めまして」
 聞き覚えのある声に振り返り頭を上げたら、「戸根と申します」と、頭を下げた戸根院長と目と目が合う。

「うちのがお世話になっております」
 戸根院長は澄ましたような顔で羽吹副院長に視線を移す。

 うちのがって言い方は、うちの戸根動物病院の女医がって意味の身内ノリってことでしょ?

 とりあえず羽吹院長に戸根院長を紹介しよう。話はそれからだ。
「羽吹副院長、私がお世話になっている戸根動物病院の戸根院長です」 

「初めまして、お会い出来て光栄です」
 サッと立ち上がり、何度も深々と挨拶をした羽吹副院長が腰をおろす。

「戸根院長、どうしたんですか? なにしているんですか」
 職業病なのかパニックのときに限って、やけに冷静になる。

 仰ぎ見ていた戸根院長から羽吹副院長に視線を移すと、状況を読み取ろうと頭を回転させている様子。

「どうして、ここにいらっしゃるのですか?」 
「迎えに来たんだ、お前遅いから」

 腕をつかまれたと思ったら椅子にオイルでも塗られているかのように、するりと滑り引き寄せられ立たされた。

「離してください、咬みつきますよ、吠えますよ」
 ふざけたまねして、この人なんなのよ!
「今日も犬みたいに威勢が良いな」

「約束なんかしていません」
「約束ではない、迎えに来るのは習慣だ。いつものことなのに忘れたのか?」
 なにデタラメ言ってんのよ。

「てか、迎えに来るってなんなんです?」
「だから、お前の帰りが遅いからだと言っているだろう」
「私、頼んでいませんよ?」 

「パートナーとの痴話喧嘩を他所様に見せるのはスマートではない。この辺にしないか紗月」

「パートナー? てか、それより紗月って呼び捨てなんなんですか?」

「今は完全にプライベートだからだ。呼び捨てもいつものことだ、恥ずかしがるな」  

「ご冗談を」
 鼻から息が漏れ、ふと羽吹副院長に視線を移したら、私たちのやり取りを面食らったような顔でぽかんと見ている。

「どうだ、紗月落ち着いたか?」
「私は最初から冷静です、ご冗談がすぎますよ」

 羽吹副院長の顔を見てみなさいよ、明らかに引いているから。

「驚かれましたでしょう。わたしといるときの彼女は外科の女医らしく、はつらつとしてはっきりとした物言いでキツい性格です、以前から」
 
 内気で柔順だった私の性格が強気に変わったのは、そう
 ──あの日から──