「ちょっと良いですか」
「なんだよ、勧誘みたいに近付いて来るな」
不機嫌そうな声で顔も上げずに術衣や猫の保定袋のほつれを器用に縫っている。
「今日も牛丼だったのか」
「そうですよ」
「誘えよ」
「どなたを?」
「俺だよ」
「あぁ、気付かなくてすみません。お腹すいてたんですね、お土産買って来れば良かった」
「また一緒に食べるんだよ、伊乃里の食べっぷりが見たいんだ」
変人か、やっぱり変人なのか。
「なぜ、いつもドクターコートやスクラブに赤いシミがあるのかと思ったら、紅しょうがの汁だったのか」
針を持つ手を止めて、私なんかそっちのけでメチャクチャ興味深げな視線をドクターコートに向けてくる。
「シミを落とそう、真っ白にするにはなにが必要なのか」
独り言をつぶやき、また縫い始めた。
「それより、あのですね羽吹副院長って、私が研修医時代にお世話になっていた」
「それが?」
「それがって?」
「それで? って聞けばいいのか?」
相談相手を間違えたか? 幸星くんに話せば良かったか。
「羽吹さんのことは、よく話しているじゃないか。今日は言いにくそうだ、言えよ」
言いにくそうな奴に言えよときたか。もう少し注意深く聞いても罰当たらないよ?
「実はですね」
「まどろっこしいな、いつものお前らしく単刀直入に言えよ」
だから、今言おうと思ってんじゃんよ。
「急に思い出したように二年ぶりにメールがきたんですよ」
「なんだ、ヤリ目か」
「ちょ、絵に描いたような爽やかイケメン青年ですよ」
「どうして突然連絡をよこすか、男の思考回路を考えてみろ」
「突然になってしまったのは今まで忙しかったんでしょう。会ったら話すから、とにかく会おうということです」
「切羽詰まっているな」
お、鼻先に人差し指をあてて擦っている。考え込んでいるときの癖。
また細かいことを心配している。
初めて私のことで心配しているのは気のせいか。なにか問題でも?
「三年前に、私のことをひとりの女性として意識していたって言われたんですよ」
メールの話では顔を上げて話に興味を示していたけれど、今の私のひとことで、またほつれ直しに集中し始めた。
「俺にやきもちを焼かせたいのか?」
「そうじゃなくて」
「で、いいから続きを話していろよ」
“話してみろよ”じゃなくて“話していろよ”ってか。私の大事な話はBGMかい。
「羽吹副院長が意識していたのは、私が入職したときですから五年前からですって」
もう、そんな経つんだ。私も二十八のオバサンになるわけだわ。
「なんだよ、勧誘みたいに近付いて来るな」
不機嫌そうな声で顔も上げずに術衣や猫の保定袋のほつれを器用に縫っている。
「今日も牛丼だったのか」
「そうですよ」
「誘えよ」
「どなたを?」
「俺だよ」
「あぁ、気付かなくてすみません。お腹すいてたんですね、お土産買って来れば良かった」
「また一緒に食べるんだよ、伊乃里の食べっぷりが見たいんだ」
変人か、やっぱり変人なのか。
「なぜ、いつもドクターコートやスクラブに赤いシミがあるのかと思ったら、紅しょうがの汁だったのか」
針を持つ手を止めて、私なんかそっちのけでメチャクチャ興味深げな視線をドクターコートに向けてくる。
「シミを落とそう、真っ白にするにはなにが必要なのか」
独り言をつぶやき、また縫い始めた。
「それより、あのですね羽吹副院長って、私が研修医時代にお世話になっていた」
「それが?」
「それがって?」
「それで? って聞けばいいのか?」
相談相手を間違えたか? 幸星くんに話せば良かったか。
「羽吹さんのことは、よく話しているじゃないか。今日は言いにくそうだ、言えよ」
言いにくそうな奴に言えよときたか。もう少し注意深く聞いても罰当たらないよ?
「実はですね」
「まどろっこしいな、いつものお前らしく単刀直入に言えよ」
だから、今言おうと思ってんじゃんよ。
「急に思い出したように二年ぶりにメールがきたんですよ」
「なんだ、ヤリ目か」
「ちょ、絵に描いたような爽やかイケメン青年ですよ」
「どうして突然連絡をよこすか、男の思考回路を考えてみろ」
「突然になってしまったのは今まで忙しかったんでしょう。会ったら話すから、とにかく会おうということです」
「切羽詰まっているな」
お、鼻先に人差し指をあてて擦っている。考え込んでいるときの癖。
また細かいことを心配している。
初めて私のことで心配しているのは気のせいか。なにか問題でも?
「三年前に、私のことをひとりの女性として意識していたって言われたんですよ」
メールの話では顔を上げて話に興味を示していたけれど、今の私のひとことで、またほつれ直しに集中し始めた。
「俺にやきもちを焼かせたいのか?」
「そうじゃなくて」
「で、いいから続きを話していろよ」
“話してみろよ”じゃなくて“話していろよ”ってか。私の大事な話はBGMかい。
「羽吹副院長が意識していたのは、私が入職したときですから五年前からですって」
もう、そんな経つんだ。私も二十八のオバサンになるわけだわ。



