父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

「さすがラブ、食いしん坊、発揮ですね」
「まさに」
 モニターを見ながら小さく笑い合う。

 異物の位置を特定した戸根院長が摘出して、ステンレス製の膿盆に乗せ小さく吹き出す。

「焼き鳥がそのまま出てきた」
「食べられますよ?」
「遠慮する」
 マスクに覆われていない目もとが優しく微笑んだ。

「終了、十二指腸も異常なし」
「さすがです。念には念をで抜かりなく診てくれるなんて戸根院長優しい。私もついでに診ますけどね」

「伊乃里は念には念をじゃなく、内視鏡検査が楽しくて面白くて仕方がないんだろう」
 
「アハハハ、ビンゴ」
 お見通しじゃないか。

 戸根院長と話しながら、挿入しているビデオカメラや管類を二人で抜き取って処置を終わらせた。

「おお、やりましたね、おめでとうございます。UFOキャッチャーみたいでしたね」

「やっぱり楽しんでいたな」
「やりたくてウズウズしていました。気持ち良かったですよね?」

「確かに気持ちが良い達成感だ。気持ち良いなんて、異物摘出の内視鏡の時しか言えない」

「アハハハ、言っちゃいましょ、すっきりしましたよね」

「伊乃里がバディだとスムーズに事が進む」
「光栄の至りです」

 戸根院長は手先が繊細で器用だから安心してアシスト出来る。念には念をで丁寧に見てくれるし。

「この子、黒ラブなのにフィオナだ」
 フィオナってどんな意味なんだろう。
「意味は白い。ウィットに富んだ飼い主で発想がユニークだ」

「面白い、そういうことですか。さすが戸根院長、博識ですね」

「シャレが利いている」

 少し口角を上げてフィオナからガスマスクを外している戸根院長に、すぐに麻酔を覚ます注射を渡して施してもらう。

「ケージに運ぶぞ、重いから気を付けろ」
「はい」
 声をかけ合い、持ち上げてケージに寝かせる。獣医療は体力勝負の仕事。

 だらりと脱力した大型犬は人間のおとな並みにずっしりと重い。

「お疲れ様です」
「お疲れ。着替えたら飼い主に電話をするからフィオナの様子を見ていてくれ」

 使い捨ての手術用マスクを引きちぎりながら、術衣を脱ぎ足早に入院室を出て行った。

 獣医師がひとりだけの病院は大変だろうな。獣医師ひとりの動物病院って開院中に救急が入って来たらどうするんだろう。

 羽吹も名垣も巨大センターだからチームワークでフォローし合えたからなぁ。