父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています

 丸田マロのことで、戸根院長に褒められ認められたことが嬉しくてテンションだだ上がりで飲まずにはいられない。

 早速、幸星(こうせい)くんが経営しているダイニングバー『MANGATA(モーンガータ)』に繰り出した。

 店名はスウェーデン語で水面に映った道のように見える月明かりのこと。

 名前の由来通り幸星くんは月明かりのように優しく道すじを照らしてくれる。

 半年前、帰り道にふらりと立ち寄ったまま、猫みたいに居ついたお気に入りの店。

 そうだ、同じく酒豪のあの子を呼び出そう。誘えば二つ返事で駆け付ける可愛い梨奈ちゃんを。

 二十分程で思った通りやって来た。

「お疲れ様です」
「お疲れ、駆け付け一杯なににする?」
「すみません」 

 軽く片手を上げた梨奈ちゃんがバーテンダーでもある幸星くんを呼んだ。「カシスオレンジお願いします」だと?

「幸星くん、ホワイトルシアンとルシアンコークで」
「紗月さん、レディキラーじゃないですか。梨奈子ちゃん酔わせてどうするんです?」 

「私をどうしてくれるんですか?」
 クスッと笑う笑顔が女から見ても食べちゃいたいくらいに可愛い顔。

 ちょろっと眉毛を描いてリップを塗っただけで、速攻店に来た梨奈ちゃん。なんて恐ろしく可愛いルックスなんだ。
 
「梨奈子ちゃん、どうぞホワイトルシアン」
 しなやかな幸星くんの指先が流れるようにロックグラスを差し出す。

「どうして梨奈ちゃんがホワイトルシアンって分かったの?」

「見た目と甘さに騙されますが、ウォッカベースの強烈な強さがホワイトルシアン。それが梨奈子ちゃんですから」

 うん、確かに梨奈ちゃんは見た目が甘く騙されそうだが、中身はかなり芯が強い。

「よく梨奈ちゃんのことを観察しているわね。核心をついているわ」
 
「紗月さんはルシアンコークですね、お待たせしました」 
「さっきまで吟醸あおっていたからお口直し」

「ルシアンコークがお口直しって、本当に伊乃里先生も呑兵衛ですよね」

「梨奈子ちゃん聞いてよ。紗月さんは和らぎ水(やわらぎみず)も飲まずに延々と飲んでいたんだよ」

「洋酒にもチェイサーって追い水があるのと同じで日本酒にもあるんですね。和らぎ水とは美しく趣がある言葉ですね」

「お酒の合間に口の中を一度リセットすることで、次の一杯も繊細な日本酒の味を楽しむことが出来るのよ」

「えっ、伊乃里先生にもそんな繊細なところがあったんですね」
 百年ぶりに驚いたような顔でまじまじ見つめてくる。チッ、顔が可愛いから許す。
 
「紗月さんってルシアンコーク似合いますよね」

 幸星くんも梨奈ちゃんも自分で言うのもなんだが、私に見惚れているような気持ちが良い笑顔を向けてくる。