時雨が組の人間だと分かってから数日。
顔を合わせづらく時雨が来ないであろう朝倉組に泊めさせてもらっていた。
三咲「お前、レイか」
街を歩いていると、後ろから肩を掴まれる。
松井、なんだったか。茶髪の男がいた。
「なに」
三咲「純さんと優香里さんの娘だろ」
「……知らない」
三咲「なんで、時雨に近づく?復讐でもしたいのか」
「復讐……?」
おかしくて、笑みが溢れる。
三咲「なにがおかしい?」
だって、おかしいでしょ。くだらないでしょ。
復讐なんてするほど、
「興味ないよ」
三咲「あ、おい!」
腕を振り払い再び歩き出す。
復讐なんてどうでもいい。
復讐なんてするほど、
家族のことなにも知らないっていうのに。
***
あの日を境に時雨と会うことは一度もなかった。
街灯も点いていない暗い空間に時雨と二人きり。
何年経っても変わることがなかった時雨への恋心に結局、蓋を閉じることができなかった。
優しくて、辛い時そばにいてくれた時雨。
たったそれだけの理由だけど、私にとってはヒーローみたいに大きくて。
暗闇から救い出してくれる、特別な人。
時雨「……レイ」
その声を聞いた瞬間、世界の色がわずかに変わった気がした。
闇に溶けるような低い声で、それでも優しく私の名前を呼ぶ。
顔を上げると、時雨の瞳と目が合った。
息を飲む間もなく、ゆっくりと一歩、また一歩と近づいてくる。
足がすくんで動けない。
ただ、その場で彼を見つめるしかなかった。
気づけば――
唇が触れ合っていた。
初めてのキスは、思っていたよりも柔らかくて、温かくて。
心臓が大きく脈を打ち、鼓動の音が耳の奥で響いた。
何もかもが一瞬でどうでもよくなるくらいに、
時雨が好きだと思った。
