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次の日。学校に行ったわたしは、教室に行く前に校庭の桜の木があった場所に立ち寄った。
大きくて立派だった桜の木は切り株になっていて、何日か前まで満開の花を咲かせていたのがウソみたいだ。
あたりまえだけど、そこにはもう桜介くんもいない。
少し淋しい気持ちで、わたしはスカートのポケットの中に入れているピンクのお守りをぎゅっと握りしめた。
桜介くんがくれた桜の花びらは、日にちが経っても萎れる気配がない。それどころか、ずっと、ツヤツヤと輝きを放っていて……。
わたしは花びらを大和くんにもらったピンクのお守りの中に入れた。
桜介くんがくれた花びらと大和くんのお守りが、わたしのことを守ってくれるような気がしたから。
きのうは休んでしまったし、みさとちゃんたちのこともあるから教室に行くのは少し気が引けるけど……。いつまでも問題から逃げ続けるわけにはいかない。
「桜介くん、がんばるね……」
桜の切り株に向かってつぶやくと、深呼吸して昇降口へと向かう。
靴箱で上履きに履き替えていると、大和くんが登校してきた。
あくびしながら昇降口から入ってきた大和くんは、わたしに気付くとハッとしたように口を押さえて目をそらす。
それから、わたしを見ないようにして、自分の靴箱から上履きを取り出した。



