季節はずれの桜の下で




 おかあさんと話したあと部屋に戻ると、勉強机に置いた桜の花びらが目に留まった。

 桜介くんがいなくなる直前に、わたしにくれた花びら。持って帰ってきてからだいぶ時間が経つのに、その花びらは少しも萎れていなくて綺麗なままだ。

 不思議な力で守られているみたい……。

 そんなふうに思っていると、ピンポーンとインターホンが鳴る。

「心桜〜、ハルちゃんが来たから、降りてきてもらっていい?」

 しばらくすると、お母さんがわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。

 そういえば、もう学校から帰ってくる時間だ。

 部屋から出て階段を降りていくと、玄関に立っていたハルちゃんがわたしに小さく手を振った。

「心桜、元気?」

 きのうはわたしがあまりに泣いたから、ハルちゃんはきっとびっくりしただろうな。

 今さらだけど、ちょっと恥ずかしい。

 わたしが照れ笑いでうなずくと、ハルちゃんがほっとしたように笑った。

「よかった……。これ、お見舞い」

 ハルちゃんがそう言って、コンビニの袋を渡してくれる。なかには、わたしの好きなプリンが入っていた。

 ありがとう、と静かに唇を動かすと、ハルちゃんが「どういたしまして」と笑う。