季節はずれの桜の下で

 びっくりしたし、ワケがわからなかった。

 写真に写っていたのは、わたしの通う中学校の制服を着た男の子と女の子。仲良さそうに並ぶふたりのうちの、男の子のほうが、桜介くんだったのだ。

「お母さん……、この人……」

 震える手で写真の中の桜介くんを指さすと、お母さんもちょっと驚いたように目を見開く。

「まさかとは思ったんだけど……、やっぱり、心桜の言ってた桜介くんってこの子?」

「そうだよ。でもどうしてお母さんが桜介くんの写真なんて……」

「この男の子ね、お母さんの弟なの」

「え、じゃあ、いっしょに写ってる女の子は……」

「中学生のときのお母さん。お母さんたち、心桜の中学校の卒業生なの。弟の桜介は、優しくていい子だった。もともと友達も多くて、よく笑う子だったんだけど、中学に入ってから、授業に出ずにひとりで校庭の桜の木の下で過ごしてることが多くなって……。中学三年生のときに死んじゃった」

 写真の桜介くんを見つめながら、お母さんがぽつぽつと話してくれる。

 わたしは今まで、お母さんに弟がいたことを知らなかった。親戚からもそんな話は聞いたことなくて、お母さんはひとりっ子だったんだと思っていた。

 でも、桜介くんが亡くなったあと、お母さんのお母さん――、わたしのおばあちゃんがショックで心を壊してしまって……。

 それを心配したおじいちゃんが、桜介くんの写真がおばあちゃんの目に触れないように処分して、おばあちゃんの前では桜介くんの話を出さないことに決めたらしい。

 お母さんが持っていた桜介くんの写真は、誰にも見つからないように隠しておいた一枚だった。

「きのう、心桜を連れて帰ってきてくれたハルちゃんから、校庭の桜の木が切られたことや、心桜が最近桜の木の下で誰かと会ってたらしいってことを聞いたの。最初は、心桜が死んだ桜介に会ってるなんてありえないって思ってたんだけど……。きのう、桜介くんがいなくなったって泣いている心桜を見たら、もしかしたらって……」