季節はずれの桜の下で


 校庭の桜の木が切られた次の日。わたしは学校を休んだ。

 泣きすぎたせいで目が腫れて、朝起きるとひどい顔になっていたのだ。

「心桜、おやつにチーズケーキ焼いたんだけど食べない?」

 昼を過ぎてもベッドでごろごろしていると、お母さんがわたしに声をかけてくる。少し迷ったあと、わたしはベッドから起き上がった。

 リビングに降りていくと、お母さんが紅茶の用意をしていた。

 テーブルにつくと、お母さんがチーズケーキと紅茶をわたしの前に出してくれる。

「……いただきます」

 手を合わせてケーキを食べ始めると、お母さんも自分の分の紅茶を持ってきてわたしの前に座った。

 しばらくわたしのことを見ながら紅茶を飲んでいたお母さんが、「あのね」と話を切り出す。

「きのう、心桜が言ってた桜介くんのこと聞いてもいい?」
「え……?」

 お母さんから桜介くんの名前が出たことに、ドキッとした。

 きのう、ハルちゃんに連れられて帰ってきたわたしはすごく混乱していて。わたしを心配するお母さんの前でも、「桜介くんが、いなくなっちゃった……」と泣いてしまったのだ。

 桜の木の下の幽霊だった桜介くん。そんな彼のことを、どう説明したらいいだろう。

 わたしが困っていると、お母さんがエプロンのポケットから一枚の写真を取り出す。

 それを見たわたしの呼吸が、一瞬止まりかけた。