わたしが右手を開いて前に出すと、桜介くんがそこに、薄ピンクの桜の花びらを一枚のせた。
桜の花は完全に散ってしまったのに、どこからひろってきたんだろう。
薄ピンクの小さな花びらには汚れひとつなく、わたしの手のひらで温かな光を放っている。
「ずっと見守ってるよ、心桜ちゃんのこと」
桜介くんが、わたしにやさしく笑いかける。その次の瞬間、ふわっとやわらかな風が吹いて……。桜介くんの姿は、風にのって消えてしまった。
ほんとうにいなくなっちゃった……。
桜介くんにもらった桜の花びらを握りしめたわたしの目から、ぶわーっと一気に涙が溢れてくる。それを制服の袖でぬぐっていると、後ろからぽんと肩を叩かれた。
「なあ、心桜……。今のなに?」
肩越しに振り向くと、大和くんが青ざめた顔で桜介くんがいたほうを指さす。
「今の、幽霊だよな。心桜、今何か渡されてただろ。それ、やばくないか? 今すぐ捨てろよ」
大和くんはそう言って、桜の花びらを握るわたしの手をつかむ。
なにも知らない大和くんには、桜介くんが怖い幽霊に見えてるのかも……。そんなの、違うのに。
わたしが首を横に振って無言で手を払いのけると、大和くんが表情をこわばらせた。
「人が心配してんのに、なんで言うこと聞かねーの? 桜の木の下の幽霊に取り憑かれたら、あの世に連れてかれるってウワサなんだぞ」
早口で言葉をぶつけてくる大和くんはすごく怒っている。
その表情と声がいつもよりも怖くて震えそうだったけど……。大和くんの言うことなんて、聞けない。
ふーっと深呼吸すると、わたしはスマホのメモアプリを開いて文字を打った。
《桜介くんはそんなことしない》
それを見せると、大和くんの顔つきがするどくなった。



