「桜介くんが……、一番つらい時に出会えたらよかったのに……」
涙ぐむわたしに、桜介くんが小さく首を横に振ってみせる。
「おれは、心桜ちゃんが一番つらい時に出会えてよかったと思ってる。桜が季節を間違えて咲いてくれてよかった。心桜ちゃんこそ、おれの居場所を守ってくれてありがとう」
桜介くんの言葉に、わたしの目からぽたぽたと涙が落ちた。
「違うよ。わたしは、なにもできてない……」
今だって桜の木を切る音が響いていて、わたしにはもう止められない。
涙が止まらなくなってしまったわたしに、桜介くんが「そんなことないよ」とやさしく微笑む。
「そういえば、次はおれのターンだったよね」
「……え?」
「しあわせゲーム。最後に、おれが幽霊になってから一番嬉しかったこと言うね」
桜介くんが、メガネの奥でいたずらっぽく目を細める。
「秋に咲いた桜の下で、心桜ちゃんに会えたこと」
桜介くんがそう言って笑った瞬間、わたしは胸がぎゅーっと押しつぶされるような心地がした。
桜介くんの言葉が嬉しいのに、せつなくて、すごく苦しい。
だって、桜介くんは「最後に」って言った。
だから、桜介くんがくれる嬉しい言葉は全部、お別れの言葉ってことでしょう……?
それを認めるのが嫌で、わたしは泣きながら首を横に振る。
「次に桜が咲くときに、また会えるよね?」
わたしの質問に困ったように眉を下げた桜介くんは、あいまいに笑うだけだった。
代わりに「心桜ちゃん」と名前を呼んで、わたしに右手を差し出してくる。



