季節はずれの桜の下で


「何やってんだよ、心桜」

 怒った声でそう言いながら振り向いたのは大和くんで、わたしはおもわずビクッと震えてしまった。

「早く木から離れろ。作業の邪魔になってんだろ」

 わたしをにらんでくる大和くんが怖い。だけど、わたしは勇気を出して首を横に振った。

 大和くんに何を言われても、わたしはここを離れるつもりはない。

 眉間に力を入れて初めて大和くんのことをにらみ返すと、彼がズカズカと近付いてきて、乱暴にわたしの肩をつかんで桜の木から引きはがした。

「いい加減にしろよ、心桜! ここにいたら、危ないんだって」

 大和くんが怒った声でそう言って、わたしの腕を無理やり引っ張る。

「すみません、こいつはちゃんと連れて行くので」

 大和くんは作業員のおじさんに頭を下げると、わたしを引っ張って歩き出した。

 やめて……! 離して! わたしは、桜介くんの桜の木を守らないといけないのに……。

 地面に足を踏ん張ったり首を横に振って拒否したけれど、大和くんの力は強くて、わたしの力では逆らえない。

「ほんとにどうしたんだよ、心桜。おれ、きのうも言ったよな。あの桜の木は危ないって。それとも、ガチで幽霊に取り憑かれてる……?」

 大和くんがわたしを振り返りながら、疑いの目で見てくる。