「桜介くん……」
泣きそうなのを堪えてつぶやいたとき。
「おーい、君。そんなところで何してるの? これから作業がするから、離れてくれないと危ないよ」
現場の作業員のおじさんに声をかけられた。
ダメだよ。この木は、絶対に伐っちゃダメ。
この桜の木の下は、桜介くんにとって大切な居場所なんだ。だから、守らなきゃ……。
わたしは桜の木を背中に守るようにして両手を広げると、作業員のおじさんを見上げて首を横に振った。
「伐るなってこと? そう言われてもなあ」
桜の木の前から動かないわたしを見て、おじさんが困り顔で頬を掻く。
「なんだ、どうした?」
わたしがおじさんをにらんでいると、別の作業員のおじさんがやってきた。
「いやあ、それが……。この子が急にやってきて、桜の前からどいてくれないんですよ」
「はあ? 生徒には学校から説明があったんじゃないのか? この木は早く対応しないと危ないんだ。その子にちゃんと説明して、それでもだめなら職員呼んで来い」
「ああ、はい……。ほら、聞いただろ。この木はもうだいぶ高齢だから、事故が起きる前に対応しておかないと」
作業員のおじさんがわたしを説得しようとする。
でも、わたしは木のそばを離れなかった。
「仕方ないなあ。もう、先生呼びにいくよ?」
どれだけ説明しても動かないわたしを見て、最後にはおじさんがあきらめたようにため息を吐く。
そのとき、
「作業の邪魔してすみません!」
ひとりの男子生徒がわたしとおじさんのあいだに割って入ってきた。



