《桜、きるの?》
震える指で、スマホのメモアプリに文字を打って見せると、ハルちゃんが「あれ?」と首を傾げる。
「もしかして心桜、聞いてない? 何日か前のホームルームで話しがあったはずだよ。倒れてきたら本格的に危ないから、桜の花が散るのを見計らって伐採予定だ、って。その話があったの、心桜が教室に出てないときだったのかなあ。うちのクラスでは、今日の朝も担任から話があったけど……。心桜、学校遅れてきたもんね」
《いつ、伐るの? 何時から?》
「そこまで具体的には……。でも、あたし達が下校する頃に業者の人が来るって。でもさあ、心桜。最近、桜の木の下で気になる人と会ってたんだよね。そのひとはなにも言ってなかった?」
ハルちゃんの質問に、わたしはふるふると首を横に動かす。
知らない、そんなの……。
桜の木が伐られたら、桜介くんはどうなるの――?
最後に見た桜介くんのさびしそうな笑顔が脳裏をよぎる。
もしかしたら、桜介くんはわかっていたのかもしれない。季節はずれに咲いた花が散れば、木が伐られてしまうこと。
桜介くんは、人前でうまく話せないわたしをやさしく受け入れてくれた。みさとちゃん達に嫌がらせされたわたしに居場所をくれて守ってくれた。
それなのに、わたしは……。わたしだけが、何にも知らなかった。
会いに行かないと。桜介くんに……!
そう思ったときにはもう、わたしの足は走り出していた。
「心桜!? どこ行くの?」
ハルちゃんに呼ばれたけれど、振り返る余裕なんてない。
外に出ると、校庭の桜の木のそばに軽トラックが止まっているのが見えた。
桜の木の周りには作業着の人たちが何人かいて、トラックから荷物をおろしたり、木を囲む柵の撤去作業をしている。
桜の木の下には、桜介くんの姿は見えなかった。
わたしは、よく桜介くんとふたりで座っていたあたりまで走って行くと、桜の木の幹に触れた。
桜介くん、やっぱりもう消えちゃった……?
このまま会えなくなるなんて、そんなの嫌だよ。



