季節はずれの桜の下で


 ホームルームが終わったあと帰る用意をしていると、ハルちゃんが教室までわたしを迎えに来た。

「心桜、体調大丈夫?」

 スクールバッグを持って廊下に出ると、ハルちゃんが学校に遅刻したわましのことをすごく心配してくれた。

《心配かけてごめんね》

 スマホのメモアプリに文字を打って見せると、ハルちゃんがにこっと笑いかけてくれる。

「心桜が元気ならいいんだよ。帰ろっか」

 ハルちゃんの言葉にうなずきながら、わたしは桜介くんのことを考えていた。

 このまま、桜の下に行かずに帰ってしまっていいのかな。

 迷っていると、教室から出てきた大和くんたちの男子グループがわたしとハルちゃんの横を通り過ぎていった。

 そのあとすぐに教室から出てきたみさとちゃんと綾香ちゃんが大和くんたちに声をかける。

「ねえ、今日、みんなで遊んで帰らない?」
「いいよ、どこ行く?」

 誘われた男子たちは、遊びに行くのに乗り気みたい。だけど……。

「ごめん。おれ、今日は行かない」

 いつもだったら一番に誘いにのるはずの大和くんが、そんなふうに断っていた。

「え、なんで? 大和行かないの?」

 そっけない態度で歩いていこうとする大和くんを、みさとちゃんが追いかける。

「待って。大和も行こうよ。大和いないとつまんないよ」

「気分がのらない」

「そんなこと言わないでよ。今日は桜の木を伐るから、校庭の部活は全部中止でしょ。せっかくだし、みんなで遊ぼうよ」

 大和くんを引き止めようとするみさとちゃん。聞こえてきたその言葉に、ドキッとした。

 今、なんて……? 桜の木を、伐るって言った……?