最初は、大和くんがわたしへのいじわるでそう言ったのかと思った。
だけど、いぶかしげに首をかしげる大和くんの目は、ウソやいじわるを言っているようには見えない。それに気付いたとたん、心臓がドクン、ドクンと激しく脈を打ち始め、顔から血の気が引いていった。
「どうした、心桜? 顔色悪い……」
心配そうに尋ねてくる大和くんに小さく首を振ると、わたしはスカートのポケットからスマホを出した。それから、メモアプリを開くと、少し震える指で文字を打つ。
《わたしはひとりじゃない》
メモに打った文章を見せると、大和くんが「は?」と眉根を寄せた。
《桜介くんがそばにいたでしょう?》
「誰だよ、桜介って。心桜、さっきから何の話して――」
わたしが新しく打ちなおした文を見た大和くんが、眉間のシワを深くする。
けれどすぐに、何かを思いついたかのようにハッと言葉を飲み込んだ。
「なあ、心桜。もしかして……、桜の木の下に幽霊でも見えてんの……?」
大和くんの言葉で、胸にざわざわっとさざ波が立つ。
幽霊って……。みんながウワサをしていた桜の木の下の……?
そんな、まさか。桜介くんが幽霊のはずない。
ばっと、勢いよく桜の木を振り返る。その瞬間、わたしの心臓が凍り付いた。
わたしが振り向いた視線の先。校庭の古い桜の木の下に、桜介くんがいないのだ。
ウソ……。どうして……? さっきまで、たしかにそこにいたのに。
不安になったわたしは、大和くんにつかまれていた手を思いきり振り払うと桜の木に向かって駆けだした。



