季節はずれの桜の下で


 参観日の日。廊下側の一番前の席の子から順番に発表が始まって、ついにわたしの番がきた。

 椅子から立ち上がると、教室のうしろに立っているおとうさんやおかあさん、それから先生やクラスメートたちの視線がわたしに集まる。

 胸がドキドキした。ふだんの何倍も。

 はっきりとわかるくらいに手がガクガク震える。急にすごくのどがかわいてきて、何度かつばを飲みこむ。

 それでも、おかあさんが見にきてくれているから。

 死ぬほどがんばって、声を出した。

「に、入学式のとき咲いていた、校庭の桜の花が、とてもきれいでした……」

 のどからしぼり出したわたしの声は、か細く小さかった。

 それでも……。わたし、教室で発表できた……!

 そのことがうれしくて、ちょっと興奮して、顔が熱くなった。

 ドキドキしながら、ゆっくりと椅子に座ったそのとき。

「おお、心桜しゃべった〜」

 大和くんのひやかしの声が教室にひびいた。

 彼のそのひとことで、教室が一瞬、ざわざわっとする。

 同じ幼稚園出身の大和くんは、わたしがずっと教室でしゃべれなかったことを知っている。

 今までしゃべらなかったわたしが急にしゃべったから、大和くんは驚いたんだろう。

 話し方がおかしかったのかな。声が変だったかな。

 うつむいて座るわたしを、クラスのみんなが見ているような気がする。

 そう思ったら、発表できたうれしさでほてっていた顔が、からかわれたはずかしさで燃えるように熱くなってきた。