季節はずれの桜の下で


「心桜が来ないなら、こっちから行くからな」

 そう言うと、大和くんが柵に足をかけてあっさりと乗り越えてくる。そのまま大股歩きで桜の木に近付いてきた大和くんは、座っているわたしの手をグイッと引っ張った。

「ほら、立て。今から急げば、次の授業にギリギリ間に合う」

 ほとんど力づくでわたしを立たせた大和くんが、そう言って腕を引っぱる。

 痛い。イヤだ。わたし、行かない! 桜介くん……!

 大和くんに引きずられながら振り向くと、わたしの心の呼びかけに答えるように桜介くんが「心桜ちゃん……」と呼んでくれた。

 桜介くんに助けを求めるように手を伸ばすと、彼もわたしのほうに手を差し伸べてくれる。

 でも……。わたしと桜介くんとの距離はどんどん離れていってしまう。

 わたしの手を引っ張る大和くんは、桜介くんのことをチラリとも見なかった。

 必死に抵抗するわたしと桜介くんのことをわざと無視してるみたいだ。

 柵の前まで来ると、大和くんがわたしを先に外に出す。つづいてすぐに柵を乗り越えると、わたしを引っ張ってずんずん歩いていく。

 桜の木から少し離れたところで、振り向いた大和くんが「はあーっ」とため息を吐いた。

「ほんとにさあ、毎日、あんなところでひとりで何やってんの?」

 ひとり……? 大和くんのほうこそ、何言ってるの……?

 大和くんに言葉に、わたしはおもわず眉をひそめる。